【あなたはどう思う?!】ドイツ国民の本音が見える映画『帰ってきたヒトラー』
- 2017/07/16
- 03:16
最近になってあちこちで制作されているナチスやヒトラーをテーマにした映画。
独裁や虐殺の歴史はなにも第二次大戦のドイツだけに限ったことではないし、さすがにしつこいので、私はこういう類の作品はしばらく避けていました。
しかし、そんな中でも気になって観たこちらの映画はコンセプトからして斬新で興味深い内容です。
『帰ってきたヒトラー』(2015年 脚本・監督:デヴィット・ヴェント 出演:オリヴァー・マスッチ、ファビアン・ブッシュ、カッチャ・リーマン 他)


帰ってきたヒトラー コレクターズ・エディション [Blu-ray][→Amazon]
【あらすじ】──テレビ会社「My TV」をクビになったサヴァツキ(ファビアン・ブッシュ)が撮影した映像にヒトラーそっくりの男(オリヴァー・マスッチ)が映り込む。
その男は2014年に蘇った本物のアドルフ・ヒトラーであった。
彼をものまね芸人だと思い込んでいるサヴァツキはテレビ会社復職のため、ヒトラーとともにドイツ中を旅しながらドキュメンタリーの自主動画を撮影していく。
自らの野望を再び実現させようとしているヒトラーを前に、人々はドイツ国内の政治や移民問題への不満や本音を語り始める。──

☆ドキュメンタリーゆえに耳を疑う!ドイツ国民の本音
ティムール・ヴェルメシュによる同名の風刺小説を基に制作されたこの映画。
フィクションでありながら、ドキュメンタリーシーンも取り入れているのが見所です。
ヒトラーに扮したオリヴァー・マスッチがドイツ中の一般人にドイツの政治に対する意見を聞いてまわるのですが──
そこで出るわ出るわ!
ドイツ国民たちの現在の本音!
そもそもドイツやその他のヨーロッパ諸国で、ヒトラーの格好をした者が現れること自体がとんでもない話しだと思うのですが…
意外にも皆、このヒトラーの格好をした男に好意的に近づいてくるではありませんか!
そしてヒトラーに寄り添うように「移民排除」の訴えを示す者たち。
一緒に写真を撮りたがる若者たち。
すっかりスターさながらに人気者になっていきます。

そこに映るのは、「彼なりの"民主主義"を掲げる独裁者と、それを心強い国の牽引者として慕う市民」という構図そのものです。
忘れてはならないのは、この部分がドキュメンタリーであることです。
そこがリアルに恐いです。
確かに彼らの意見はわからないでもありません。
2016年度のドイツでは、移民(難民ならびに難民申請を拒否された人々)による犯罪が17万4438件に上ったとの報告がありました。
前年度の11万4238件より50%以上の増加です。
いくらリベラル思考による善意からくる「難民受け入れ」といっても、そこには難しい現実がありますね。
しかしこの映画のドキュメンタリーのシーンでは、それらの本音をヒトラー(になりきった役者)を前に口にしています。
映画制作における"ヤラセ"──もしくは端からフィクションであれば良いのですが。
なるほど。
今のドイツ国民の何割かはこんな風に思っているのかと驚かされます。
そんな事実を踏まえたうえでの、コメディタッチなフィクションのシーン。
始めは政治ネタのジョークありの台詞に笑えますが、後半へ向かうにつれてこれが笑うに笑えない…
既に観た人たちの何人かが同じような感想を言っていましたが、その意味がゾーッと背筋に伝わります!
★恐いくらいに凝りすぎたオリヴァー・マスッチの役づくり
メイキング映像で見受けられる、ヒトラー役オリヴァー・マスッチによるやりすぎ感満載な役の入りよう!
ウソでしょ?本当に怒ってる!
ヒトラーを演じてるというより、まるで本当にヒトラーが憑依しています。
だいたいヒトラーが登場する映画はどれも俳優によるヒトラーの役づくりがよくできています。
しかし、このオリヴァー・マスッチによるヒトラー、マジで恐いです!
実際、自分をヒトラーだと思い込んでいる精神病患者になりすまして、精神科医のカウンセリングを受けてみたと、インタビューで語っています。
普段は舞台俳優であるオリヴァー・マスッチの、この体当たりな演技に脱帽です。
外見の役づくりにおいては、私が今まで観た中では『ヒトラー 〜最期の12日間〜』のブルーノ・ガンツと良い勝負です。
☆それでも思考が一方的すぎるこの作品
笑うに笑えないジョークも交えつつ、ドキュメンタリーシーンを駆使した形で表現したドイツの現状、そこから伝わる民主主義の尊さを訴えているこの作品。
しかし「移民受け入れ反対=ナチス」といわんばかりのメッセージと、インタビューで語る俳優や制作者たちの観点はやや一方的すぎる気がするのも否めません。
少なくとも私はそれを感じました。
多様な人々が隔たりなく受け入れられる世界というのはもちろん最終的な理想です。
しかし、先にも例にあげたドイツの難民受け入れから来ている犯罪増加の問題にあるように、やはりそんな簡単な話しではありません。
とりわけメルケル首相の政策には多くの人々が反対意見を持ったり、疑問を抱いているでしょう。
ヒトラーに扮した役者という存在なしに見れば、このドキュメンタリーのシーンに登場するドイツ国民たちの意見は(過激な意見もありますが)やはり無視できないものがあります。
「外国人を差別するわけではない。ただ、まずは自国民の権利が優先されるべき」
どこかの誰かが言ったこの意見は正にドンピシャと言えますが、本作を観ていてもそれを実感します。
だからこそ、この映画を観た人は、ただ単にナチスの思想への危うさを感じとるだけではなく、より多方面な視点から、それぞれの考えを持って意見するべきだと言えます。


帰ってきたヒトラー(字幕版)[→Prime Video]
[→吹き替え版]
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→★ナチス題材映画いろいろ! SF映画『アイアン・スカイ』
→★ナチス題材映画いろいろ!②──史実を基にした作品たち
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独裁や虐殺の歴史はなにも第二次大戦のドイツだけに限ったことではないし、さすがにしつこいので、私はこういう類の作品はしばらく避けていました。
しかし、そんな中でも気になって観たこちらの映画はコンセプトからして斬新で興味深い内容です。
『帰ってきたヒトラー』(2015年 脚本・監督:デヴィット・ヴェント 出演:オリヴァー・マスッチ、ファビアン・ブッシュ、カッチャ・リーマン 他)

【あらすじ】──テレビ会社「My TV」をクビになったサヴァツキ(ファビアン・ブッシュ)が撮影した映像にヒトラーそっくりの男(オリヴァー・マスッチ)が映り込む。
その男は2014年に蘇った本物のアドルフ・ヒトラーであった。
彼をものまね芸人だと思い込んでいるサヴァツキはテレビ会社復職のため、ヒトラーとともにドイツ中を旅しながらドキュメンタリーの自主動画を撮影していく。
自らの野望を再び実現させようとしているヒトラーを前に、人々はドイツ国内の政治や移民問題への不満や本音を語り始める。──

☆ドキュメンタリーゆえに耳を疑う!ドイツ国民の本音
ティムール・ヴェルメシュによる同名の風刺小説を基に制作されたこの映画。
フィクションでありながら、ドキュメンタリーシーンも取り入れているのが見所です。
ヒトラーに扮したオリヴァー・マスッチがドイツ中の一般人にドイツの政治に対する意見を聞いてまわるのですが──
そこで出るわ出るわ!
ドイツ国民たちの現在の本音!
そもそもドイツやその他のヨーロッパ諸国で、ヒトラーの格好をした者が現れること自体がとんでもない話しだと思うのですが…
意外にも皆、このヒトラーの格好をした男に好意的に近づいてくるではありませんか!
そしてヒトラーに寄り添うように「移民排除」の訴えを示す者たち。
一緒に写真を撮りたがる若者たち。
すっかりスターさながらに人気者になっていきます。

そこに映るのは、「彼なりの"民主主義"を掲げる独裁者と、それを心強い国の牽引者として慕う市民」という構図そのものです。
忘れてはならないのは、この部分がドキュメンタリーであることです。
そこがリアルに恐いです。
確かに彼らの意見はわからないでもありません。
2016年度のドイツでは、移民(難民ならびに難民申請を拒否された人々)による犯罪が17万4438件に上ったとの報告がありました。
前年度の11万4238件より50%以上の増加です。
いくらリベラル思考による善意からくる「難民受け入れ」といっても、そこには難しい現実がありますね。
しかしこの映画のドキュメンタリーのシーンでは、それらの本音をヒトラー(になりきった役者)を前に口にしています。
映画制作における"ヤラセ"──もしくは端からフィクションであれば良いのですが。
なるほど。
今のドイツ国民の何割かはこんな風に思っているのかと驚かされます。
そんな事実を踏まえたうえでの、コメディタッチなフィクションのシーン。
始めは政治ネタのジョークありの台詞に笑えますが、後半へ向かうにつれてこれが笑うに笑えない…
既に観た人たちの何人かが同じような感想を言っていましたが、その意味がゾーッと背筋に伝わります!
★恐いくらいに凝りすぎたオリヴァー・マスッチの役づくり
メイキング映像で見受けられる、ヒトラー役オリヴァー・マスッチによるやりすぎ感満載な役の入りよう!
ウソでしょ?本当に怒ってる!
ヒトラーを演じてるというより、まるで本当にヒトラーが憑依しています。
だいたいヒトラーが登場する映画はどれも俳優によるヒトラーの役づくりがよくできています。
しかし、このオリヴァー・マスッチによるヒトラー、マジで恐いです!
実際、自分をヒトラーだと思い込んでいる精神病患者になりすまして、精神科医のカウンセリングを受けてみたと、インタビューで語っています。
普段は舞台俳優であるオリヴァー・マスッチの、この体当たりな演技に脱帽です。
外見の役づくりにおいては、私が今まで観た中では『ヒトラー 〜最期の12日間〜』のブルーノ・ガンツと良い勝負です。
☆それでも思考が一方的すぎるこの作品
笑うに笑えないジョークも交えつつ、ドキュメンタリーシーンを駆使した形で表現したドイツの現状、そこから伝わる民主主義の尊さを訴えているこの作品。
しかし「移民受け入れ反対=ナチス」といわんばかりのメッセージと、インタビューで語る俳優や制作者たちの観点はやや一方的すぎる気がするのも否めません。
少なくとも私はそれを感じました。
多様な人々が隔たりなく受け入れられる世界というのはもちろん最終的な理想です。
しかし、先にも例にあげたドイツの難民受け入れから来ている犯罪増加の問題にあるように、やはりそんな簡単な話しではありません。
とりわけメルケル首相の政策には多くの人々が反対意見を持ったり、疑問を抱いているでしょう。
ヒトラーに扮した役者という存在なしに見れば、このドキュメンタリーのシーンに登場するドイツ国民たちの意見は(過激な意見もありますが)やはり無視できないものがあります。
「外国人を差別するわけではない。ただ、まずは自国民の権利が優先されるべき」
どこかの誰かが言ったこの意見は正にドンピシャと言えますが、本作を観ていてもそれを実感します。
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