洋画でよくある“ケンカと仲直りを繰り返す男女”にイライラするあなたはコレを観て! 『ロスト・エモーション』
エイリアンやブレードランナーの話題が盛り上がっているリドリー・スコットが製作総指揮のこちらの映画──
近未来SFということで、私はもちろん飛びついて観ました。
『ロスト・エモーション』(2016年 製作総指揮:リドリー・スコット、ラッセル・レヴィン、イ・ジェウ 製作:マイケル・シェイファー、アン・ロアク 脚本:ネイサン・パーカー 原案・監督:ドレイク・ドレマス 出演:ニコラス・ホルト、クリステン・スチュワート、ガイ・ピアース 他)


ロスト・エモーション [DVD][→Amazon]
【あらすじ】──世界戦争によって地上の99.6%が破壊された近未来。
平和のために、遺伝子操作によって感情を排された人間の共同体「イコールズ」が創られ、監視下に置かれていた。

愛情や欲望などの感情が芽生えた場合は病気とみなされ、隔離施設に送られる。
そんな共同体で、感情が芽生えた1人の男が飛び降り自殺をする事件が発生。
現場を見ていたサイラス(ニコラス・ホルト)は同じく現場を見ていた女性・ニア(クリステン・スチュワート)が動揺していることに気づき、彼女が感情を芽生えさせながらも隠していることを察する。
そしてサイラス自身もまた感情が芽生え苦悩しながらニアに惹かれていた。
周囲に感づかれないように近づく二人は共同体からの脱出を決意する。──

☆思わず世界に惹きこまれる感情のない理想郷!
この映画の原題は、登場する共同体の名を取って『Equals』ですが、日本向けのタイトルは『ロスト・エモーション』
つまり感情が失われた世界であることを強調しています。
そのタイトルどおり、この映画は感情を持たないことによって争いが起きない“理想の世界”が描かれています。
感情を持たないということは、そこには恐怖や不安、悲しみや怒りがありません。
そう、その意味では確かに理想的な世界だと思われます。
それゆえに人物たちはなんとも素っ気ない表情で業務をこなし会話するわけなのですが──
そんな人物たちを演じる役者の演技がなんとも観ていてクセになります。
感情を出さないシーンなんて退屈じゃないか!
と、思ったらそうでないんですね!
日頃から皆が皆、感情があってあたりまえとして現実世界を過ごしている私たちからすれば、この無感情という表現がかえって、非日常のアートに思えてきます。
それにしても、こう思ってしまって良いものなのか?
そこには当然、喜びや笑いもないはずなのに、こうして映画を観ているとなぜか人物が思いのほか幸福に満ちあふれていそうに思えてきます。
そんなふうに思うのは私だけでしょうか?
やはり私は、恐怖や不安、悲しみや怒りがないというところに重点を置いて、こんな世界が妙に羨ましいです。
なるほど、戦争なんて起きないわけだ!
平和が保たれた世界で、いかなる情動にも左右されることなく、それぞれの役割をもって仕事をこなしていく。
皮肉なことに、感情が芽生えてしまった1人が自殺をするという前半の展開。
あなたはどうとらえるでしょうか。
★撮影場所は日本!作品を彩る安藤忠雄の建築

日本を代表する建築家・安藤忠雄の建築物を中心に、日本でロケが行われたこの映画。
撮影が行われた場所は以下:
・長岡造形大学(新潟県長岡市)
・埼玉県立大学(埼玉県越谷市)
・MOA美術館(静岡県熱海市)
・淡路夢舞台(兵庫県淡路島)
・狭山池博物館(大阪府狭山市)
淡路夢舞台と狭山池博物館が安藤忠雄による建築で、劇中ではこれらの建築物を中心に各々の場所が使われ、1つの作品の世界が作りあげられています。
私は建築の知識はありませんが、安藤忠雄の建築物といえば、むき出しになった石の壁と大胆なガラス張りが特徴的ですね。
とにかくあの無機質な造りが美しくカッコいいです。
その2ヶ所のロケ地はともに関西にあるというところが、関西在住の私としては感慨深いです。
こんなところに俳優たちが来てたんだなと思うと…
私は先日、興味が沸いて大阪府の狭山池博物館の方に行ってきました!

こちらのロケ地は映画の後半(開始から約1時間15分以降)に登場することを確認しました。

この通路をクリステン・スチュワートが車椅子で押されて通るシーンがあります。

遠くてわかりづらいですが、写真奥の突き当たりは階段が左右対象に通っており、俳優たちが歩くシーンがあります。

こちら2つの建物もチラッと映っています!
これら安藤忠雄の建築物の特徴が、映画の持つ“無感情”な世界観を際立たせています。
いかにも安藤忠雄の建築を前面に出しているというのではなく、さりげなく物語の世界に溶け込むようにして作品を彩っていますね!
近未来SFというとハイテクな世界を描写することが多いのですが、この作品はそれほどまでにハイテク感ある造形で見せている部分がほとんどありません。
代わりにこの日本各地の建築物を駆使して無機質という未来感を表現しているのではないでしょうか。

上にあげた各ロケ地が近くにあるという人、あるいは比較的訪れやすいという人は実際に訪れてみて、どの場所がどの場面で使われているか、映画でチェックしてみるのもおもしろいかと思います。
☆物語の重要な人物役にガイ・ピアース
主なキャストに注目してみます。
まずは主演のニコラス・ホルト。

イギリス出身の俳優なんですが、典型的な英国の甘いマスクといった顔つきです。
本作での雰囲気が、私はコールドプレイのクリス・マーティンと重なります。
『X-MEN』シリーズや『マッドマックス 怒りのデス・ロード』に出演していたとのことですが…
ダメだ!
まだ両方とも観たことない!
これを機にチェックしてみようか。
そしてニコラス・ホルト扮するサイラスが恋に落ちる相手の女性・ニアを演じているクリステン・スチュワート。

彼女の出演作で特に私の思い入れが深いのは『パニック・ルーム』ですね。
『トワイライト』シリーズにも出演していましたが、本作『ロスト・エモーション』では髪をショートにしていて、ややボーイッシュにも思えます。
まだ12歳だった『パニック・ルーム』出演時と重なります。
因みに私は記憶にないのですが『ザスーラ』にも出演していたんですね!
うわっ!
『パニック・ルーム』と並んで久々に観たくなってきました。
さて、恋愛関係になる二人にとって重要な鍵を握る人物の1人を演じているのがガイ・ピアースです。

SFの路線で語ると『タイムマシン』で主演を演じていたのが今でも強い印象にあります。
『プロメテウス』のピーター・ウェイランドの役もそうですが、本作『ロスト・エモーション』では風貌がずいぶん変わっていて始めはガイ・ピアースだと気づきませんでした。
実はジョニー・デップに負けず劣らずのカメレオン俳優?
★ストーリーの軸は飽くまで二人の純愛!
“戦争を起こさぬよう感情を持つことを禁じられ監視された社会”
この設定、以前ブログであげた『リベリオン ─反逆者─』(→記事参照)と似ている気がします。
あちらも近未来SFです。
しかし本作『ロスト・エモーション』はSFではありますが、アクション要素はいっさいなく、ストーリーの軸は飽くまで純愛です。
ところで、ラブストーリーに限らず、洋画で少なからず男女の恋愛を描写している作品でたまにイライラさせられるものがあります。
最近とあるホラー映画で、主人公の夫婦がやたらケンカと仲直りを繰り返すという場面が多くて、私は正直イライラさせられました。
洋画の恋愛描写にはよくそういう両極端な演出があるような気がします。
その点を思えば、本作『ロスト・エモーション』はなんとも、延々と心地よいピュアラブストーリーです!
少しずつ変化していく二人の心。


お互い大人であるにも関わらず、まるで初めて異性に触れたような目を見せる、ニコラス・ホルト扮するサイラス。
先ほどから述べてる“無感情”や“無機質”が効果となってこれだけの純愛描写が完成していると言えます。
“無感情” “無機質”
本来悪いイメージに響く言葉ですが、この映画においては恋愛を描くうえでの重要な要素になっているんですね。


ベタに起伏のある愛情を前面に出しているわけでもないのに、それが新鮮で、そして他の映画にはない説得力を醸しています。
劇中で流れ続けるアンビエントな音楽、撮影場所の持つ映像世界、抑えた感情の中で苦悩と喜びを表現する俳優たちの演技が1つとなって、異色で芸術的なSFラブストーリーが作りあげられています。
製作総指揮のリドリー・スコット以上に、これだけの作品を監督したドレイク・ドレマスの名前をもっと前に出すべきです!
よって、“リドリー・スコット製作総指揮”の文字が目立ちますが、エイリアンやブレードランナーのようなハイテク感満載のSFを想像してはいけません。
ムダのない洗練された世界に対する男女の恋愛がテーマの作品です。


ロスト・エモーション(字幕版)[→Prime Video]
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近未来SFということで、私はもちろん飛びついて観ました。
『ロスト・エモーション』(2016年 製作総指揮:リドリー・スコット、ラッセル・レヴィン、イ・ジェウ 製作:マイケル・シェイファー、アン・ロアク 脚本:ネイサン・パーカー 原案・監督:ドレイク・ドレマス 出演:ニコラス・ホルト、クリステン・スチュワート、ガイ・ピアース 他)

【あらすじ】──世界戦争によって地上の99.6%が破壊された近未来。
平和のために、遺伝子操作によって感情を排された人間の共同体「イコールズ」が創られ、監視下に置かれていた。

愛情や欲望などの感情が芽生えた場合は病気とみなされ、隔離施設に送られる。
そんな共同体で、感情が芽生えた1人の男が飛び降り自殺をする事件が発生。
現場を見ていたサイラス(ニコラス・ホルト)は同じく現場を見ていた女性・ニア(クリステン・スチュワート)が動揺していることに気づき、彼女が感情を芽生えさせながらも隠していることを察する。
そしてサイラス自身もまた感情が芽生え苦悩しながらニアに惹かれていた。
周囲に感づかれないように近づく二人は共同体からの脱出を決意する。──

☆思わず世界に惹きこまれる感情のない理想郷!
この映画の原題は、登場する共同体の名を取って『Equals』ですが、日本向けのタイトルは『ロスト・エモーション』
つまり感情が失われた世界であることを強調しています。
そのタイトルどおり、この映画は感情を持たないことによって争いが起きない“理想の世界”が描かれています。
感情を持たないということは、そこには恐怖や不安、悲しみや怒りがありません。
そう、その意味では確かに理想的な世界だと思われます。
それゆえに人物たちはなんとも素っ気ない表情で業務をこなし会話するわけなのですが──
そんな人物たちを演じる役者の演技がなんとも観ていてクセになります。
感情を出さないシーンなんて退屈じゃないか!
と、思ったらそうでないんですね!
日頃から皆が皆、感情があってあたりまえとして現実世界を過ごしている私たちからすれば、この無感情という表現がかえって、非日常のアートに思えてきます。
それにしても、こう思ってしまって良いものなのか?
そこには当然、喜びや笑いもないはずなのに、こうして映画を観ているとなぜか人物が思いのほか幸福に満ちあふれていそうに思えてきます。
そんなふうに思うのは私だけでしょうか?
やはり私は、恐怖や不安、悲しみや怒りがないというところに重点を置いて、こんな世界が妙に羨ましいです。
なるほど、戦争なんて起きないわけだ!
平和が保たれた世界で、いかなる情動にも左右されることなく、それぞれの役割をもって仕事をこなしていく。
皮肉なことに、感情が芽生えてしまった1人が自殺をするという前半の展開。
あなたはどうとらえるでしょうか。
★撮影場所は日本!作品を彩る安藤忠雄の建築

日本を代表する建築家・安藤忠雄の建築物を中心に、日本でロケが行われたこの映画。
撮影が行われた場所は以下:
・長岡造形大学(新潟県長岡市)
・埼玉県立大学(埼玉県越谷市)
・MOA美術館(静岡県熱海市)
・淡路夢舞台(兵庫県淡路島)
・狭山池博物館(大阪府狭山市)
淡路夢舞台と狭山池博物館が安藤忠雄による建築で、劇中ではこれらの建築物を中心に各々の場所が使われ、1つの作品の世界が作りあげられています。
私は建築の知識はありませんが、安藤忠雄の建築物といえば、むき出しになった石の壁と大胆なガラス張りが特徴的ですね。
とにかくあの無機質な造りが美しくカッコいいです。
その2ヶ所のロケ地はともに関西にあるというところが、関西在住の私としては感慨深いです。
こんなところに俳優たちが来てたんだなと思うと…
私は先日、興味が沸いて大阪府の狭山池博物館の方に行ってきました!

こちらのロケ地は映画の後半(開始から約1時間15分以降)に登場することを確認しました。

この通路をクリステン・スチュワートが車椅子で押されて通るシーンがあります。

遠くてわかりづらいですが、写真奥の突き当たりは階段が左右対象に通っており、俳優たちが歩くシーンがあります。

こちら2つの建物もチラッと映っています!
これら安藤忠雄の建築物の特徴が、映画の持つ“無感情”な世界観を際立たせています。
いかにも安藤忠雄の建築を前面に出しているというのではなく、さりげなく物語の世界に溶け込むようにして作品を彩っていますね!
近未来SFというとハイテクな世界を描写することが多いのですが、この作品はそれほどまでにハイテク感ある造形で見せている部分がほとんどありません。
代わりにこの日本各地の建築物を駆使して無機質という未来感を表現しているのではないでしょうか。

上にあげた各ロケ地が近くにあるという人、あるいは比較的訪れやすいという人は実際に訪れてみて、どの場所がどの場面で使われているか、映画でチェックしてみるのもおもしろいかと思います。
☆物語の重要な人物役にガイ・ピアース
主なキャストに注目してみます。
まずは主演のニコラス・ホルト。

イギリス出身の俳優なんですが、典型的な英国の甘いマスクといった顔つきです。
本作での雰囲気が、私はコールドプレイのクリス・マーティンと重なります。
『X-MEN』シリーズや『マッドマックス 怒りのデス・ロード』に出演していたとのことですが…
ダメだ!
まだ両方とも観たことない!
これを機にチェックしてみようか。
そしてニコラス・ホルト扮するサイラスが恋に落ちる相手の女性・ニアを演じているクリステン・スチュワート。

彼女の出演作で特に私の思い入れが深いのは『パニック・ルーム』ですね。
『トワイライト』シリーズにも出演していましたが、本作『ロスト・エモーション』では髪をショートにしていて、ややボーイッシュにも思えます。
まだ12歳だった『パニック・ルーム』出演時と重なります。
因みに私は記憶にないのですが『ザスーラ』にも出演していたんですね!
うわっ!
『パニック・ルーム』と並んで久々に観たくなってきました。
さて、恋愛関係になる二人にとって重要な鍵を握る人物の1人を演じているのがガイ・ピアースです。

SFの路線で語ると『タイムマシン』で主演を演じていたのが今でも強い印象にあります。
『プロメテウス』のピーター・ウェイランドの役もそうですが、本作『ロスト・エモーション』では風貌がずいぶん変わっていて始めはガイ・ピアースだと気づきませんでした。
実はジョニー・デップに負けず劣らずのカメレオン俳優?
★ストーリーの軸は飽くまで二人の純愛!
“戦争を起こさぬよう感情を持つことを禁じられ監視された社会”
この設定、以前ブログであげた『リベリオン ─反逆者─』(→記事参照)と似ている気がします。
あちらも近未来SFです。
しかし本作『ロスト・エモーション』はSFではありますが、アクション要素はいっさいなく、ストーリーの軸は飽くまで純愛です。
ところで、ラブストーリーに限らず、洋画で少なからず男女の恋愛を描写している作品でたまにイライラさせられるものがあります。
最近とあるホラー映画で、主人公の夫婦がやたらケンカと仲直りを繰り返すという場面が多くて、私は正直イライラさせられました。
洋画の恋愛描写にはよくそういう両極端な演出があるような気がします。
その点を思えば、本作『ロスト・エモーション』はなんとも、延々と心地よいピュアラブストーリーです!
少しずつ変化していく二人の心。


お互い大人であるにも関わらず、まるで初めて異性に触れたような目を見せる、ニコラス・ホルト扮するサイラス。
先ほどから述べてる“無感情”や“無機質”が効果となってこれだけの純愛描写が完成していると言えます。
“無感情” “無機質”
本来悪いイメージに響く言葉ですが、この映画においては恋愛を描くうえでの重要な要素になっているんですね。


ベタに起伏のある愛情を前面に出しているわけでもないのに、それが新鮮で、そして他の映画にはない説得力を醸しています。
劇中で流れ続けるアンビエントな音楽、撮影場所の持つ映像世界、抑えた感情の中で苦悩と喜びを表現する俳優たちの演技が1つとなって、異色で芸術的なSFラブストーリーが作りあげられています。
製作総指揮のリドリー・スコット以上に、これだけの作品を監督したドレイク・ドレマスの名前をもっと前に出すべきです!
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