チャン・ツィイーが活躍する映画②──『グランド・マスター』
- 2018/04/13
- 22:12
香港・中国映画が最近あまり日本の映画市場で表に出ないなというのは以前から述べていますが──
そしてこれまた以前から、私がチャン・ツィイーに魅了されていて、彼女の出演作品をあれこれ観ていこうと述べていました。
そうやっていくつか観ているうちに、割りと最近の作品がある!
と、気づくのでした。
しかも監督はウォン・カーウァイ!
『グランド・マスター』(2013年 監督:ウォン・カーウァイ 出演:トニー・レオン、チャン・ツィイー、チャン・チェン、マックス・チャン、ワン・チンシアン、ソン・ヘギョ 他)


グランド・マスター [Blu-ray][→Amazon]
【あらすじ】──1930年代、日中戦争勃発前。
中国の南部広東佛山の武術家・イップ・マン(トニー・レオン)の元に、北部東北の武術家・ゴン・パオセン(ワン・チンシアン)が訪れる。
引退を考えているパオセンは、自分に勝った武術家を代表として、南部の技を北部に伝えてもらう目的でイップ・マンに近づいていた。
パオセンの試しに合格したイップ・マンは南部の代表となるが、それを不服に思うパオセンの娘・ルオメイ(チャン・ツィイー)がイップ・マンに試合を申し込む。
試合によりイップ・マンを代表として認めたルオメイは彼に惹かれるようになり、二人は心を通わせるが、そんな中、日中戦争が勃発する。──
☆ガッツリとカンフー映画!それでいて現代的な新しさ!
そもそもこうしてカンフーを描いた香港・中国映画を観るのも久しぶりな気がします。
もっと言えば、ここまでガッツリとカンフーをテーマにした映画は、私はあまり観たことがないです。
カンフーを駆使して悪をやっつけるというのではなく、武術家どうしが熱く戦い、力を試しあう意味で、カンフーというカンフーそのものを視点に置いた作品です。

劇中には詠春拳、形意拳、八卦掌、八極拳といった拳法が登場しますが、正直私は詳しくありません。
実在した主人公イップ・マンは、このうちの詠春拳の使い手で、弟子のブルース・リーもこの拳法であったことを初めて知りました。
そんなカンフー(武術)そのものを視点にした映画は、それこそブルース・リーの出演していた作品などが例にあげられます。
しかしこの『グランド・マスター』という作品はやはり、そこに現代的な新しさを感じさせるカメラワークや演出があります。
相当な訓練を積んで身につけたであろう、俳優たちの武術の演技ももちろんすばらしいのですが、1930年代の中国を舞台にした映像の世界観がさらにそれを芸術の粋に持ち上げています。
こんなスタイリッシュなカンフー映画は初めて観たと言ってもいいくらい、カンフー映画の傑作といえます。
これを他でもない、カンフーの本家本元の国で製作されたのだから文句なしですね!
映像の面で私が観ていて特に惹きつけられたのは遠近で見せるその風景。
女性たちの華やかな衣装が、その遠近法の中で目に映る様は、理屈抜きに楽しささえ伝わります。

硬派なカンフー映画でいて、時代背景が生きた文化的な景観を芸術的に見せることに手を抜いていない。
テーマ性とそれを盛り上げる見た目の演出の両方が合わさったボリュームある作品と言えます。
★やっぱりここがウォン・カーウァイの世界
私は割りと最近、『恋する惑星』『天使の涙』『2046』を観たのですが、──
ウォン・カーウァイ監督の作品は、主人公の生きてる世界を、こっちの世界の私たちが本当にサラッと傍観しているような気持ちにさせられます。
ナレーションも絡めながら、そこに映る人物とは別に、ストーリーの展開、成り行きそのものがまた主人公であるかのようにスクロールされている感覚です。
本作は日中戦争という歴史的背景で、カンフーというアクティブなテーマできている映画なのですが、やはりウォン・カーウァイの世界がちゃんとそこにあるんですね。
“人物たちの様々な交錯”
これなんですよね!
時間の流れや場面の切り替わりごとに、主人公というポジションまでもが別の人物に切り替わったかのような錯覚が起きそうで、さらには時々そんな内容についていけなくなることもあります。
油断して観ていたら、ん?今誰がどうなっているんだ?と、頭の中を整理しながら観ることになります。
それでも最後まで観たときにわかってきて、心地よい後味をもたらしてくれるのですからおもしろいですね。
そして1回観て内容をつかんでからもう1回観ると、おもしろさが増すでしょう。
先にあげたウォン・カーウァイ監督の3作品を見る限り、彼の作品は淡いロマンスを描いた恋愛映画のイメージが私の中では強いです。
そんな彼がカンフー映画を撮るとこうなります!というのを見せられたような、ある意味では異彩を放った作品でもあります。
☆イップ・マン役のアクティブなトニー・レオン
どこかクテッとした人物像を演じたら、なんとも憎めない味わい深さを醸すトニー・レオンが、この作品においては武術の使い手として強者な人物像を演じています。

『HERO』のときも剣術の使い手を演じていましたが、それとは違う余裕感を漂わせた強者です。
実際のイップ・マンはあんな格好をしていたのかはわかりませんが、黒いコートに白いハットというシンプルな対比を見せた服装。

それで一人で複数の相手を倒してしまう構図が、コイツに敵うヤツはいない!と言わんばかりの孤高なイメージに仕上がっています。
こんなトニー・レオンも良いものですね!
十数年前だったらジェット・リーが演じていても不思議じゃないポジションだし、もう少し最近になればそれこそドニー・イェンがイップ・マンを演じた映画があります。
そんな役をここではトニー・レオンが演じることによって、新しい彼の魅力を発揮できています。
もともとガッツリとアクション俳優というイメージではないトニー・レオンですが、これもやはりウォン・カーウァイ監督による“人物たちの交錯”の描写の力か、格闘シーンだけじゃないぞ!と言わんばかりに役者の持ち味を120%引き出せているのかもしれません。
★場面が進むごとに美しくなるチャン・ツィイー
チャン・ツィイーはいくつかの武侠映画などの出演の中で、繊細な美しさの中にも男性的な屈強さを持つ女性の役がはまっています。
武術を描いた本作においてもそんな特徴に目新しさはないものの、その分だけに“安定の魅力”があります。
父親の決断に納得がいかない女性・ルオメイは、職業は医者とのことです。
そういう役なので何もおかしいことではないのですが、この劇中でのチャン・ツィイーは初見では武術の使い手という雰囲気ではないんですね。
しかし、やはり父親より受け継いだ形意拳の使い手でめちゃ強いです。
そんなチャン・ツィイーが演じる、医者であり武術家でもある女性の、場面が進むごとの微妙な変化がまた見所の1つです。
イップ・マンに出逢ってからの心の変化が可憐さとして現れてきて、だんだんと儚げな美しさを帯びてくるのは私の気のせいか、それとも制作側が狙ったのか。
以前の記事でも似たことを述べたのですが、チャン・ツィイーって単に女性を見たときの可愛い!とか綺麗だ!とは違う愛しさがあるんですよね!

人間としての深みのある演技からアクションまで、見事に演じきる姿に惚れ惚れしてしまいます!
実は最近『グリーン・デスティニー』も改めて観たのですが、こうしてチャン・ツィイーの出演作品を観るたびに、ますます彼女に魅了されてしまいます。
他にもすばらしい女優はいるのですが、一度チャン・ツィイーが演じた人物はやはりチャン・ツィイー以外に考えられなくなるくらい、彼女だけの孤高感というのがありますね。
本作で改めてそれを感じさせられます。
──最後は個人的なチャン・ツィイー愛を語ってしまいましたが、とにかく思うのはやっぱりカンフー映画を撮らせたら中国・香港にはかなわないということ。
そら当たり前だろ!
と、つっこまれそうですが、ハリウッドにもカンフーを取り扱った映画があります。
もちろんあちらは映像の技術力が高いし、脚本が良ければその作品は面白いでしょう。
ただ、この『グランド・マスター』はホントに“功夫”というものの真に迫った世界を本家本元の国で、現代的でスタイリッシュなカメラワークと描写も絡めて製作した傑作です。

これはBlu-rayや、もし4K Ultra HDが出るならそちらで観る価値がある作品でもあるでしょう。


グランド・マスター(字幕版)[→Prime Video]
[→吹き替え版]
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そしてこれまた以前から、私がチャン・ツィイーに魅了されていて、彼女の出演作品をあれこれ観ていこうと述べていました。
そうやっていくつか観ているうちに、割りと最近の作品がある!
と、気づくのでした。
しかも監督はウォン・カーウァイ!
『グランド・マスター』(2013年 監督:ウォン・カーウァイ 出演:トニー・レオン、チャン・ツィイー、チャン・チェン、マックス・チャン、ワン・チンシアン、ソン・ヘギョ 他)

【あらすじ】──1930年代、日中戦争勃発前。
中国の南部広東佛山の武術家・イップ・マン(トニー・レオン)の元に、北部東北の武術家・ゴン・パオセン(ワン・チンシアン)が訪れる。
引退を考えているパオセンは、自分に勝った武術家を代表として、南部の技を北部に伝えてもらう目的でイップ・マンに近づいていた。
パオセンの試しに合格したイップ・マンは南部の代表となるが、それを不服に思うパオセンの娘・ルオメイ(チャン・ツィイー)がイップ・マンに試合を申し込む。
試合によりイップ・マンを代表として認めたルオメイは彼に惹かれるようになり、二人は心を通わせるが、そんな中、日中戦争が勃発する。──
☆ガッツリとカンフー映画!それでいて現代的な新しさ!
そもそもこうしてカンフーを描いた香港・中国映画を観るのも久しぶりな気がします。
もっと言えば、ここまでガッツリとカンフーをテーマにした映画は、私はあまり観たことがないです。
カンフーを駆使して悪をやっつけるというのではなく、武術家どうしが熱く戦い、力を試しあう意味で、カンフーというカンフーそのものを視点に置いた作品です。

劇中には詠春拳、形意拳、八卦掌、八極拳といった拳法が登場しますが、正直私は詳しくありません。
実在した主人公イップ・マンは、このうちの詠春拳の使い手で、弟子のブルース・リーもこの拳法であったことを初めて知りました。
そんなカンフー(武術)そのものを視点にした映画は、それこそブルース・リーの出演していた作品などが例にあげられます。
しかしこの『グランド・マスター』という作品はやはり、そこに現代的な新しさを感じさせるカメラワークや演出があります。
相当な訓練を積んで身につけたであろう、俳優たちの武術の演技ももちろんすばらしいのですが、1930年代の中国を舞台にした映像の世界観がさらにそれを芸術の粋に持ち上げています。
こんなスタイリッシュなカンフー映画は初めて観たと言ってもいいくらい、カンフー映画の傑作といえます。
これを他でもない、カンフーの本家本元の国で製作されたのだから文句なしですね!
映像の面で私が観ていて特に惹きつけられたのは遠近で見せるその風景。
女性たちの華やかな衣装が、その遠近法の中で目に映る様は、理屈抜きに楽しささえ伝わります。

硬派なカンフー映画でいて、時代背景が生きた文化的な景観を芸術的に見せることに手を抜いていない。
テーマ性とそれを盛り上げる見た目の演出の両方が合わさったボリュームある作品と言えます。
★やっぱりここがウォン・カーウァイの世界
私は割りと最近、『恋する惑星』『天使の涙』『2046』を観たのですが、──
ウォン・カーウァイ監督の作品は、主人公の生きてる世界を、こっちの世界の私たちが本当にサラッと傍観しているような気持ちにさせられます。
ナレーションも絡めながら、そこに映る人物とは別に、ストーリーの展開、成り行きそのものがまた主人公であるかのようにスクロールされている感覚です。
本作は日中戦争という歴史的背景で、カンフーというアクティブなテーマできている映画なのですが、やはりウォン・カーウァイの世界がちゃんとそこにあるんですね。
“人物たちの様々な交錯”
これなんですよね!
時間の流れや場面の切り替わりごとに、主人公というポジションまでもが別の人物に切り替わったかのような錯覚が起きそうで、さらには時々そんな内容についていけなくなることもあります。
油断して観ていたら、ん?今誰がどうなっているんだ?と、頭の中を整理しながら観ることになります。
それでも最後まで観たときにわかってきて、心地よい後味をもたらしてくれるのですからおもしろいですね。
そして1回観て内容をつかんでからもう1回観ると、おもしろさが増すでしょう。
先にあげたウォン・カーウァイ監督の3作品を見る限り、彼の作品は淡いロマンスを描いた恋愛映画のイメージが私の中では強いです。
そんな彼がカンフー映画を撮るとこうなります!というのを見せられたような、ある意味では異彩を放った作品でもあります。
☆イップ・マン役のアクティブなトニー・レオン
どこかクテッとした人物像を演じたら、なんとも憎めない味わい深さを醸すトニー・レオンが、この作品においては武術の使い手として強者な人物像を演じています。

『HERO』のときも剣術の使い手を演じていましたが、それとは違う余裕感を漂わせた強者です。
実際のイップ・マンはあんな格好をしていたのかはわかりませんが、黒いコートに白いハットというシンプルな対比を見せた服装。

それで一人で複数の相手を倒してしまう構図が、コイツに敵うヤツはいない!と言わんばかりの孤高なイメージに仕上がっています。
こんなトニー・レオンも良いものですね!
十数年前だったらジェット・リーが演じていても不思議じゃないポジションだし、もう少し最近になればそれこそドニー・イェンがイップ・マンを演じた映画があります。
そんな役をここではトニー・レオンが演じることによって、新しい彼の魅力を発揮できています。
もともとガッツリとアクション俳優というイメージではないトニー・レオンですが、これもやはりウォン・カーウァイ監督による“人物たちの交錯”の描写の力か、格闘シーンだけじゃないぞ!と言わんばかりに役者の持ち味を120%引き出せているのかもしれません。
★場面が進むごとに美しくなるチャン・ツィイー
チャン・ツィイーはいくつかの武侠映画などの出演の中で、繊細な美しさの中にも男性的な屈強さを持つ女性の役がはまっています。
武術を描いた本作においてもそんな特徴に目新しさはないものの、その分だけに“安定の魅力”があります。
父親の決断に納得がいかない女性・ルオメイは、職業は医者とのことです。
そういう役なので何もおかしいことではないのですが、この劇中でのチャン・ツィイーは初見では武術の使い手という雰囲気ではないんですね。
しかし、やはり父親より受け継いだ形意拳の使い手でめちゃ強いです。
そんなチャン・ツィイーが演じる、医者であり武術家でもある女性の、場面が進むごとの微妙な変化がまた見所の1つです。
イップ・マンに出逢ってからの心の変化が可憐さとして現れてきて、だんだんと儚げな美しさを帯びてくるのは私の気のせいか、それとも制作側が狙ったのか。
以前の記事でも似たことを述べたのですが、チャン・ツィイーって単に女性を見たときの可愛い!とか綺麗だ!とは違う愛しさがあるんですよね!

人間としての深みのある演技からアクションまで、見事に演じきる姿に惚れ惚れしてしまいます!
実は最近『グリーン・デスティニー』も改めて観たのですが、こうしてチャン・ツィイーの出演作品を観るたびに、ますます彼女に魅了されてしまいます。
他にもすばらしい女優はいるのですが、一度チャン・ツィイーが演じた人物はやはりチャン・ツィイー以外に考えられなくなるくらい、彼女だけの孤高感というのがありますね。
本作で改めてそれを感じさせられます。
──最後は個人的なチャン・ツィイー愛を語ってしまいましたが、とにかく思うのはやっぱりカンフー映画を撮らせたら中国・香港にはかなわないということ。
そら当たり前だろ!
と、つっこまれそうですが、ハリウッドにもカンフーを取り扱った映画があります。
もちろんあちらは映像の技術力が高いし、脚本が良ければその作品は面白いでしょう。
ただ、この『グランド・マスター』はホントに“功夫”というものの真に迫った世界を本家本元の国で、現代的でスタイリッシュなカメラワークと描写も絡めて製作した傑作です。

これはBlu-rayや、もし4K Ultra HDが出るならそちらで観る価値がある作品でもあるでしょう。

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