昔の洋画ホラーが素直におもしろい!──ハサミで襲ってくる殺人鬼ホラー『バーニング』
- 2018/04/22
- 21:20
モノによっては寝てしまいそうになるほど展開が静かな洋画ホラーが最近目につく中、洋画の殺人鬼ホラーはやっぱり昔のがおもしろかったりするのかなと思えてくる作品があります。
その1つに入れられる作品がこちら。
『バーニング』(1981年 監督:トニー・メイラム 出演:ブライアン・マシューズ、リア・エアーズ、ブライアン・バッカー、ラリー・ジョシュア、ホリー・ハンター、ネッド・アイゼンバーグ、ジェイソン・アレクサンダー 他)


バーニング HDリマスター版 [Blu-ray][→Amazon]
【あらすじ】──性格が悪くて嫌われていたキャンプ場の管理人クロプシーが、少年たちのイタズラによって全身に大火傷を負ってしまう。
5年後、 見るも無惨な姿で退院したクロプシーはキャンプ場に戻り、園芸ばさみで人に襲いかかる殺人鬼と化していた。
そしてサマーキャンプに来ていたキャンパー仲間たちが次々と惨殺されていく。──
☆設定はジェイソン!しかし凶器はハサミ
いろいろ趣向を凝らした新しい作品は世に生まれていても、やっぱり普遍的な恐怖の描き方というのはあるものですね。
本作に登場するのは全身に大火傷を負い、自分にイタズラを仕掛けた者たちだけでなく、周囲の無関係な者にまで殺意を向ける怪物と化した男。
そして話の舞台となっているのは自然豊かなキャンプ場。
そこでだいたい最初に犠牲になるのはカップルです。
ちょっと待てよ!
この設定って誰もが知ってるあの名作ホラー映画のキャラクターじゃないか!
そう、『13日の金曜日』のジェイソンですよ!
違いは、ジェイソンみたいにマスクなどで顔を隠していないことと、凶器が園芸に使う大きめのハサミであること。
そしていじめられっ子ではなく性格が悪いことで嫌われていた男であることです。
後のほうではっきりと映る火傷の顔やハサミで惨殺するシーンは、今の目線で見ても痛ましくおぞましいですね!

この作品、どれくらい知られているのかは私はわからないのですが、『13日の金曜日』と似た設定とはいえ、もっと広く知られた作品として評価されても良かったのではないでしょうか。
何かと問題視された残虐描写は昔の事だからでしょと言いたくなるのですが、普通に今見てもウワッとなります。
これはやはり凶器がナイフでも鉈(なた)でもチェーンソーでもなくハサミだからでしょう。
ハサミは同じ切る道具でも、軽く刃に触れたからといってケガをするほどの鋭さではないはずです。
そんな切れ味悪そうな凶器でやられたら逆に痛そうです。
臓物を見せるわけではなく、一部の切断を除けばあとは血で見せるといった程度なのにエグいと思わせる描写です。
★シンプルゆえにおもしろいこの時代のホラー
これは本作に限らず、古い映画ならそういう作品は多いのですが、脚本は特に深みはなくわかりやすいです。
ここまでシンプルな内容は、当時だからこそ許されるというのもあるでしょう。
今と違って十分に斬新さはあったと思われます。
そんなシンプルな内容だからこそ、展開にリズム感があって退屈せずに観ていられます。
そしてそのシンプルな中にこそ、普遍的な恐怖の要素が散りばめられています。
性格の悪さから周囲から嫌われていた男が、少年らのちょっとした悪ふざけによって、生きているのが不思議なくらいの大火傷を負います。
人間への憎しみの発端となる場面。
そこに男への同情の余地はなく、醜い姿となった怪物という位置づけでのみ描いてしまう、不謹慎ながらこの類の作品としては良い意味での品のなさ!
(そもそもこのクロプシーという男が良い人間ではないのですが…)
さあ、そんな怪物と化した男が再びキャンプ場に身を潜め、キャンパーたちに接近してきます。

このシーンの演出はというと、男のぼんやりした目線から映した画面となり、まるで『ジョーズ』のサメが接近してくるような恐怖感です。

そしてあからさまにすぐに犠牲者が出るわけでなく、けっこうジラすんですよね。
このジワジワと迫る危機感は昔からの常套手段ではあるのでしょうけど、意外なほど今観ても通用しているように思います。
こういう作品においては、男女のセクシャルな描写も恐怖を盛り上げるエッセンスにすぎないんですね。
惜し気もなくさらす裸のアップも、次にはそれが流血のシーンに変わるんですから!


更にはこの映画に登場する団体の中の、強い者と弱い者の醜い構図。
根暗でほっそりした男子が1人いて、体育会系の男子にいじめられたり、女子から気味悪がられたり。
(それでも本作ではそんな弱い者を守るリーダー格な存在もあるのでマシですが…)
団体の付き合いが苦手な者も、否応なしにグループを組んで行動しなければならないという息苦しいシチュエーションもまた、こういうホラー映画の古くからの演出な気がします。
真に好感を持てるのは、その根暗な奴が最後はちょっとした活躍を見せる点です。
ところでさっきから“性格が悪い”と言っているクロプシーという男。
劇中で主人公のトッドがどんな男なのかを具体的に語るシーンはあるのですが、実際にその男が悪どい振る舞いを見せるシーンがないのは残念な気がします。
いきなり寝ているところに少年たちがイタズラを仕掛けるシーンからなのですが、ここは是非ともその男の“性格の悪さ”というのを示すシーンを入れてほしかったところです。
人物による語りだけでは、ホントにただかわいそうな男に見えてしまいそうです。

これでもしも、実際は悪くはないのに大火傷を負わされたのでは、ますますジェイソンじゃありませんか!
☆妙にクセになるリック・ウェイクマンの音楽
作品の雰囲気を作り出すうえで一役かっているのが劇中で流れるサウンドトラック。
イギリスのロックバンド、イエスに在籍していたことで知られるリック・ウェイクマンが音楽を手掛けているとのこと。
だいたいの映画に無難に使われそうなオーケストラの音楽とは違う、シンセサイザーで奏でられた80年代の香り漂う音。
荘厳さがなくチープでいながら、その怪しげなメロディーが妙にクセになります。
殺人鬼の映画でこういう音楽──
北欧の某デスメタルバンドは、もしかしてこの映画からも何かインスパイアされているのでしょうか。
プログレッシブロックのバンドに在籍していたミュージシャンだけに、それらしいテイストをしたこの音楽性は、そうどんな映画にも使えるものではなさそうですが、とりわけ本作では独自の味わいを醸し出しています。
──私はTSUTAYAで展開している発掘良品なるコーナーでたまたま本作を手にしてレンタルしたのですが、あのコーナーに置いてある映画の中でも特にホラー映画はだいたいハズれはないように思えます。
それは、使い古しながら今でも通じる普遍的な恐怖を描いた作品が集まっているからでしょう。
以前、同じコーナーでジョー・ダンテ監督による狼人間を描いた映画『ハウリング』をレンタルして観たのですが、やはりこれが素直におもしろいんですね!
本作『バーニング』と同じ時代に作られた作品ですが、どこか共通する映像世界があります。
古くさい作品であるがゆえの風合いが暗く重々しくて、いい感じに不気味です。
だからなのか、こういった作品は高画質な映像ソフトで観られるのもうれしいですが、あえて処理されすぎていない古さの残る映像で観るのも乙な気がします。


バーニング(字幕版)[→Prime Video]
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その1つに入れられる作品がこちら。
『バーニング』(1981年 監督:トニー・メイラム 出演:ブライアン・マシューズ、リア・エアーズ、ブライアン・バッカー、ラリー・ジョシュア、ホリー・ハンター、ネッド・アイゼンバーグ、ジェイソン・アレクサンダー 他)

【あらすじ】──性格が悪くて嫌われていたキャンプ場の管理人クロプシーが、少年たちのイタズラによって全身に大火傷を負ってしまう。
5年後、 見るも無惨な姿で退院したクロプシーはキャンプ場に戻り、園芸ばさみで人に襲いかかる殺人鬼と化していた。
そしてサマーキャンプに来ていたキャンパー仲間たちが次々と惨殺されていく。──
☆設定はジェイソン!しかし凶器はハサミ
いろいろ趣向を凝らした新しい作品は世に生まれていても、やっぱり普遍的な恐怖の描き方というのはあるものですね。
本作に登場するのは全身に大火傷を負い、自分にイタズラを仕掛けた者たちだけでなく、周囲の無関係な者にまで殺意を向ける怪物と化した男。
そして話の舞台となっているのは自然豊かなキャンプ場。
そこでだいたい最初に犠牲になるのはカップルです。
ちょっと待てよ!
この設定って誰もが知ってるあの名作ホラー映画のキャラクターじゃないか!
そう、『13日の金曜日』のジェイソンですよ!
違いは、ジェイソンみたいにマスクなどで顔を隠していないことと、凶器が園芸に使う大きめのハサミであること。
そしていじめられっ子ではなく性格が悪いことで嫌われていた男であることです。
後のほうではっきりと映る火傷の顔やハサミで惨殺するシーンは、今の目線で見ても痛ましくおぞましいですね!

この作品、どれくらい知られているのかは私はわからないのですが、『13日の金曜日』と似た設定とはいえ、もっと広く知られた作品として評価されても良かったのではないでしょうか。
何かと問題視された残虐描写は昔の事だからでしょと言いたくなるのですが、普通に今見てもウワッとなります。
これはやはり凶器がナイフでも鉈(なた)でもチェーンソーでもなくハサミだからでしょう。
ハサミは同じ切る道具でも、軽く刃に触れたからといってケガをするほどの鋭さではないはずです。
そんな切れ味悪そうな凶器でやられたら逆に痛そうです。
臓物を見せるわけではなく、一部の切断を除けばあとは血で見せるといった程度なのにエグいと思わせる描写です。
★シンプルゆえにおもしろいこの時代のホラー
これは本作に限らず、古い映画ならそういう作品は多いのですが、脚本は特に深みはなくわかりやすいです。
ここまでシンプルな内容は、当時だからこそ許されるというのもあるでしょう。
今と違って十分に斬新さはあったと思われます。
そんなシンプルな内容だからこそ、展開にリズム感があって退屈せずに観ていられます。
そしてそのシンプルな中にこそ、普遍的な恐怖の要素が散りばめられています。
性格の悪さから周囲から嫌われていた男が、少年らのちょっとした悪ふざけによって、生きているのが不思議なくらいの大火傷を負います。
人間への憎しみの発端となる場面。
そこに男への同情の余地はなく、醜い姿となった怪物という位置づけでのみ描いてしまう、不謹慎ながらこの類の作品としては良い意味での品のなさ!
(そもそもこのクロプシーという男が良い人間ではないのですが…)
さあ、そんな怪物と化した男が再びキャンプ場に身を潜め、キャンパーたちに接近してきます。

このシーンの演出はというと、男のぼんやりした目線から映した画面となり、まるで『ジョーズ』のサメが接近してくるような恐怖感です。

そしてあからさまにすぐに犠牲者が出るわけでなく、けっこうジラすんですよね。
このジワジワと迫る危機感は昔からの常套手段ではあるのでしょうけど、意外なほど今観ても通用しているように思います。
こういう作品においては、男女のセクシャルな描写も恐怖を盛り上げるエッセンスにすぎないんですね。
惜し気もなくさらす裸のアップも、次にはそれが流血のシーンに変わるんですから!


更にはこの映画に登場する団体の中の、強い者と弱い者の醜い構図。
根暗でほっそりした男子が1人いて、体育会系の男子にいじめられたり、女子から気味悪がられたり。
(それでも本作ではそんな弱い者を守るリーダー格な存在もあるのでマシですが…)
団体の付き合いが苦手な者も、否応なしにグループを組んで行動しなければならないという息苦しいシチュエーションもまた、こういうホラー映画の古くからの演出な気がします。
真に好感を持てるのは、その根暗な奴が最後はちょっとした活躍を見せる点です。
ところでさっきから“性格が悪い”と言っているクロプシーという男。
劇中で主人公のトッドがどんな男なのかを具体的に語るシーンはあるのですが、実際にその男が悪どい振る舞いを見せるシーンがないのは残念な気がします。
いきなり寝ているところに少年たちがイタズラを仕掛けるシーンからなのですが、ここは是非ともその男の“性格の悪さ”というのを示すシーンを入れてほしかったところです。
人物による語りだけでは、ホントにただかわいそうな男に見えてしまいそうです。

これでもしも、実際は悪くはないのに大火傷を負わされたのでは、ますますジェイソンじゃありませんか!
☆妙にクセになるリック・ウェイクマンの音楽
作品の雰囲気を作り出すうえで一役かっているのが劇中で流れるサウンドトラック。
イギリスのロックバンド、イエスに在籍していたことで知られるリック・ウェイクマンが音楽を手掛けているとのこと。
だいたいの映画に無難に使われそうなオーケストラの音楽とは違う、シンセサイザーで奏でられた80年代の香り漂う音。
荘厳さがなくチープでいながら、その怪しげなメロディーが妙にクセになります。
殺人鬼の映画でこういう音楽──
北欧の某デスメタルバンドは、もしかしてこの映画からも何かインスパイアされているのでしょうか。
プログレッシブロックのバンドに在籍していたミュージシャンだけに、それらしいテイストをしたこの音楽性は、そうどんな映画にも使えるものではなさそうですが、とりわけ本作では独自の味わいを醸し出しています。
──私はTSUTAYAで展開している発掘良品なるコーナーでたまたま本作を手にしてレンタルしたのですが、あのコーナーに置いてある映画の中でも特にホラー映画はだいたいハズれはないように思えます。
それは、使い古しながら今でも通じる普遍的な恐怖を描いた作品が集まっているからでしょう。
以前、同じコーナーでジョー・ダンテ監督による狼人間を描いた映画『ハウリング』をレンタルして観たのですが、やはりこれが素直におもしろいんですね!
本作『バーニング』と同じ時代に作られた作品ですが、どこか共通する映像世界があります。
古くさい作品であるがゆえの風合いが暗く重々しくて、いい感じに不気味です。
だからなのか、こういった作品は高画質な映像ソフトで観られるのもうれしいですが、あえて処理されすぎていない古さの残る映像で観るのも乙な気がします。

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- テーマ:映画感想
- ジャンル:映画
- カテゴリ:ホラー映画
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