ショーン・エリスの映像で史実を描いたアツきサスペンス! 『ハイドリヒを撃て!「ナチの野獣」暗殺作戦』
- 2018/05/01
- 01:31
正直、もっと良い邦題はなかったのかと思うのですが、その分テーマがストレートに伝わります。
そして歴史モノのカタいサスペンスですが、胸がアツくなるラストなので、おすすめしたくなる作品です。
『ハイドリヒを撃て!「ナチの野獣」暗殺作戦』(2016年 監督:ショーン・エリス 出演:キリアン・マーフィ、ジェイミー・ドーナン、シャルロット・ルボン、アンナ・ガイスレロヴァー、トビー・ジョーンズ、ハリー・ロイド 他)


ハイドリヒを撃て! 「ナチの野獣」暗殺作戦 [Blu-ray][→Amazon]
【あらすじ】──第2次大戦中、ナチスの統治下にあったチェコ。
現地でユダヤ人大量虐殺の実権を握っていた副総督・ラインハルト・ハイドリヒを暗殺するために、チェコスロバキア亡命政府からヨゼフ・ガプチーク(キリアン・マーフィ)とヤン・クビシュ(ジェイミー・ドーナン)ら7人の兵士が送り込まれた。
現地の反ナチス組織と協力し、作戦は成功するが、それはナチスによる壮絶な報復の始まりでもあった。──

☆ラインハルト・ハイドリヒという人物
その冷酷さから、親衛隊の部下たちから「金髪の野獣」と呼ばれていたというラインハルト・ハイドリヒ。
アドルフ・ヒトラー、ハインリヒ・ヒムラーに次ぐナンバー3の高官である彼は、ナチスの支配下に置かれたチェコのベーメン・メーレン保護領の副総督に任命されました。
ドイツ軍にとって重要な軍需産業拠点であったチェコの領土においてハイドリヒとはどんな人物だったのか。

一言で言えば飴と鞭だったとのこと。
抵抗してくるのは主に中産階級のインテリ層であることを知った彼は、労働者階級の者たちに優しい政策をとることで他民族支配の成功を収めていたそうです。
反体制派の者たちを拘束し、法的手続きを無視して即銃殺する命令を下したり、公開処刑もしばしば行ったりという、いかにもそれらしい弾圧とは裏腹に、コントロールしやすい者たちを巧みに利用する。
何がコワいって、おそらく解釈が間違ってなければ彼はサイコパスな性質を持っていたのでしょう。
殺戮とまではいかずとも、こういう人って現代社会で身近にいそうじゃないですか?
人間味のある総督に見せるために、妻子と一緒にいる写真を記者に撮らせることもよくあったそうなので、周囲にはさぞかし「仕事では高い地位と実績があり、家庭では良き夫、良き父親」という風に写っていたのでしょう。
もちろん高い知識や思考力のある者にはそうではなかったのですが。
そうして結果的には暗殺されたハイドリヒなんですが、自身の足として使っていた車がオープンカーで、移動の際に護衛車両をつけることもあまりなかったとあって、そらいかんだろ!とツッコミたくなります。
威圧的に見せないようにするためとはいえ、ちょっと抜け目がありますね。
他民族支配の成功の要因となった“懐柔”作戦が裏目に出たわけですが、だからこそ割りと簡単に暗殺されたとも言えます。
★ナチス高官暗殺の唯一の成功例「エンスラポイド作戦」
このハイドリヒの暗殺作戦である「エンスラポイド作戦」を描いた本作ですが、興味深いのはこれがナチス高官暗殺の唯一の成功例であるということです。
私はヒトラーの暗殺計画を描いた作品を2作品観たことはあります。
『ワルキューレ』に登場するクラウス・フォン・シュタウヘンベルクも『ヒトラー暗殺、13分の誤算』に登場するゲオルク・エルザーも、ヒトラーの暗殺は未遂に終わってしまっています。
そんな中、最上位ではないにしても幹部の中で重要なポジションにいた人物を殺害したこの「エンスラポイド作戦」は歴史を揺るがせた大きな出来事の1つといえます。
上にあげた、ヒトラー暗殺を未遂に終わった人物たちの話ももちろん興味深いし、歴史上の重要な出来事に変わりはありません。
しかしハイドリヒ暗殺を題材にした本作は、史実に基づいた作品の中でも、実際に暗殺に成功した話という意味で貴重です。
実は、最近ナチスやヒトラーを題材にした作品があちこちで制作されすぎていて、私は正直もういい!と感じていました。
アメリカのトランプ政権の排他主義思想に対する反発ムードも相まって、ここ最近の文化人たちにとってのナチス打倒美談は、ややもすれば戦後の連合国目線の一方的な正義感の中で肥大した“一種のファッション”と化している気もしていました。
そういった中でも本作は一際、もの珍しさに観てしまったわけなんですね!
これと同じ題材の映画は過去にいくつか作られているのですが、今改めてこうして新しく作られた作品を観られたのは良いタイミングだと思えます。
私は歴史は苦手なのですが、映画を観たのをきっかけに少しでも興味を持つことはできたかなと感じています。
映画はどうしても物語構成上の脚色が入ってくるので、内容のとらえ方に注意がいりますが、ここから関連書物などを読むほうに発展していけたら、映画の果たす1つの役割が機能しているといえます。
☆俳優たちの好演とショーン・エリス監督の作り出す世界
ヨゼフ役のキリアン・マーフィとヤン役のジェイミー・ドーナンという甘いマスクの2人によって、チョイできすぎた組み合わせになっていてズルいですが、ここは悪しからず。


これで物語の内容はというと、イギリスにあるチェコスロバキア亡命政府から送られた者たちの戦いとあって、まるで往年のスパイ映画でも絵に描いたように見えてきます。
もちろん史実に基づいた映画なのですが。
ただ、2人ともあくまで硬派な演技なので、ノリとオシャレ感で見せる意外はつまらないという安易なハリウッド娯楽映画のようにはならないです。
甘いマスクなりに良い使われ方です。
さらに脇役ながら、渋いポジションで存在感を放っているのはトビー・ジョーンズですね。

2人の主人公が合流する反ナチス組織のリーダー的な存在です。
性格俳優で、さまざまな作品の脇役で目にしている気がしますが、本作のようなシリアスな役だと、これまた際立ってシリアスな雰囲気を帯びます。
シャルロット・ルボン、アンナ・ガイスレロヴァーも、当時のナチス政権下で抵抗する頼もしい女性たちを見事に演じきっています。

そしてこの俳優たちの好演とともに、作品の世界観を作り出しているのは監督のショーン・エリスです。
彼の作品というと『フローズン・タイム』が強い印象にあります。
ストーリーはシンプルながら、やはりあの映像世界は、アート映画として観ておきたい作品です。
そのショーン・エリスは元は写真家から来ている人です。
本作でもそのこだわりが活かされているのか、映像の雰囲気が特徴的です。
というより、古い映画を観ているような荒削りなフィルムの色彩です。
それが第2次世界大戦の時代を舞台にした映画としての、そしてそもそも古い街並みが残るチェコのプラハを舞台にした映画としての味わいを引き立たせて、観ていて心地いいんですね!

事実、撮影もショーン・エリス本人が手掛けているだけに、ここは本当に彼の作り出している世界でしょう。
ちなみに脚本にも携わっているのですから、彼は完全に映画界の人ですね!
もう1つ彼の作品である『ブロークン』とあわせて、どちらかと言えば静かな作品のイメージが強かったのですが、本作のようにクライマックスで激しい銃撃戦のある作品は、新しい彼の境地と言えるかもしれません。
大げさな誇張がない演出ながら、ハイドリヒの暗殺に至るシーンからラストの激しい報復との戦いまで、スローテンポとアップテンポの対比があるサスペンスとして優れた映画です。


ハイドリヒを撃て!「ナチの野獣」暗殺作戦(字幕版)[→Prime Video]
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そして歴史モノのカタいサスペンスですが、胸がアツくなるラストなので、おすすめしたくなる作品です。
『ハイドリヒを撃て!「ナチの野獣」暗殺作戦』(2016年 監督:ショーン・エリス 出演:キリアン・マーフィ、ジェイミー・ドーナン、シャルロット・ルボン、アンナ・ガイスレロヴァー、トビー・ジョーンズ、ハリー・ロイド 他)

【あらすじ】──第2次大戦中、ナチスの統治下にあったチェコ。
現地でユダヤ人大量虐殺の実権を握っていた副総督・ラインハルト・ハイドリヒを暗殺するために、チェコスロバキア亡命政府からヨゼフ・ガプチーク(キリアン・マーフィ)とヤン・クビシュ(ジェイミー・ドーナン)ら7人の兵士が送り込まれた。
現地の反ナチス組織と協力し、作戦は成功するが、それはナチスによる壮絶な報復の始まりでもあった。──

☆ラインハルト・ハイドリヒという人物
その冷酷さから、親衛隊の部下たちから「金髪の野獣」と呼ばれていたというラインハルト・ハイドリヒ。
アドルフ・ヒトラー、ハインリヒ・ヒムラーに次ぐナンバー3の高官である彼は、ナチスの支配下に置かれたチェコのベーメン・メーレン保護領の副総督に任命されました。
ドイツ軍にとって重要な軍需産業拠点であったチェコの領土においてハイドリヒとはどんな人物だったのか。

一言で言えば飴と鞭だったとのこと。
抵抗してくるのは主に中産階級のインテリ層であることを知った彼は、労働者階級の者たちに優しい政策をとることで他民族支配の成功を収めていたそうです。
反体制派の者たちを拘束し、法的手続きを無視して即銃殺する命令を下したり、公開処刑もしばしば行ったりという、いかにもそれらしい弾圧とは裏腹に、コントロールしやすい者たちを巧みに利用する。
何がコワいって、おそらく解釈が間違ってなければ彼はサイコパスな性質を持っていたのでしょう。
殺戮とまではいかずとも、こういう人って現代社会で身近にいそうじゃないですか?
人間味のある総督に見せるために、妻子と一緒にいる写真を記者に撮らせることもよくあったそうなので、周囲にはさぞかし「仕事では高い地位と実績があり、家庭では良き夫、良き父親」という風に写っていたのでしょう。
もちろん高い知識や思考力のある者にはそうではなかったのですが。
そうして結果的には暗殺されたハイドリヒなんですが、自身の足として使っていた車がオープンカーで、移動の際に護衛車両をつけることもあまりなかったとあって、そらいかんだろ!とツッコミたくなります。
威圧的に見せないようにするためとはいえ、ちょっと抜け目がありますね。
他民族支配の成功の要因となった“懐柔”作戦が裏目に出たわけですが、だからこそ割りと簡単に暗殺されたとも言えます。
★ナチス高官暗殺の唯一の成功例「エンスラポイド作戦」
このハイドリヒの暗殺作戦である「エンスラポイド作戦」を描いた本作ですが、興味深いのはこれがナチス高官暗殺の唯一の成功例であるということです。
私はヒトラーの暗殺計画を描いた作品を2作品観たことはあります。
『ワルキューレ』に登場するクラウス・フォン・シュタウヘンベルクも『ヒトラー暗殺、13分の誤算』に登場するゲオルク・エルザーも、ヒトラーの暗殺は未遂に終わってしまっています。
そんな中、最上位ではないにしても幹部の中で重要なポジションにいた人物を殺害したこの「エンスラポイド作戦」は歴史を揺るがせた大きな出来事の1つといえます。
上にあげた、ヒトラー暗殺を未遂に終わった人物たちの話ももちろん興味深いし、歴史上の重要な出来事に変わりはありません。
しかしハイドリヒ暗殺を題材にした本作は、史実に基づいた作品の中でも、実際に暗殺に成功した話という意味で貴重です。
実は、最近ナチスやヒトラーを題材にした作品があちこちで制作されすぎていて、私は正直もういい!と感じていました。
アメリカのトランプ政権の排他主義思想に対する反発ムードも相まって、ここ最近の文化人たちにとってのナチス打倒美談は、ややもすれば戦後の連合国目線の一方的な正義感の中で肥大した“一種のファッション”と化している気もしていました。
そういった中でも本作は一際、もの珍しさに観てしまったわけなんですね!
これと同じ題材の映画は過去にいくつか作られているのですが、今改めてこうして新しく作られた作品を観られたのは良いタイミングだと思えます。
私は歴史は苦手なのですが、映画を観たのをきっかけに少しでも興味を持つことはできたかなと感じています。
映画はどうしても物語構成上の脚色が入ってくるので、内容のとらえ方に注意がいりますが、ここから関連書物などを読むほうに発展していけたら、映画の果たす1つの役割が機能しているといえます。
☆俳優たちの好演とショーン・エリス監督の作り出す世界
ヨゼフ役のキリアン・マーフィとヤン役のジェイミー・ドーナンという甘いマスクの2人によって、チョイできすぎた組み合わせになっていてズルいですが、ここは悪しからず。


これで物語の内容はというと、イギリスにあるチェコスロバキア亡命政府から送られた者たちの戦いとあって、まるで往年のスパイ映画でも絵に描いたように見えてきます。
もちろん史実に基づいた映画なのですが。
ただ、2人ともあくまで硬派な演技なので、ノリとオシャレ感で見せる意外はつまらないという安易なハリウッド娯楽映画のようにはならないです。
甘いマスクなりに良い使われ方です。
さらに脇役ながら、渋いポジションで存在感を放っているのはトビー・ジョーンズですね。

2人の主人公が合流する反ナチス組織のリーダー的な存在です。
性格俳優で、さまざまな作品の脇役で目にしている気がしますが、本作のようなシリアスな役だと、これまた際立ってシリアスな雰囲気を帯びます。
シャルロット・ルボン、アンナ・ガイスレロヴァーも、当時のナチス政権下で抵抗する頼もしい女性たちを見事に演じきっています。

そしてこの俳優たちの好演とともに、作品の世界観を作り出しているのは監督のショーン・エリスです。
彼の作品というと『フローズン・タイム』が強い印象にあります。
ストーリーはシンプルながら、やはりあの映像世界は、アート映画として観ておきたい作品です。
そのショーン・エリスは元は写真家から来ている人です。
本作でもそのこだわりが活かされているのか、映像の雰囲気が特徴的です。
というより、古い映画を観ているような荒削りなフィルムの色彩です。
それが第2次世界大戦の時代を舞台にした映画としての、そしてそもそも古い街並みが残るチェコのプラハを舞台にした映画としての味わいを引き立たせて、観ていて心地いいんですね!

事実、撮影もショーン・エリス本人が手掛けているだけに、ここは本当に彼の作り出している世界でしょう。
ちなみに脚本にも携わっているのですから、彼は完全に映画界の人ですね!
もう1つ彼の作品である『ブロークン』とあわせて、どちらかと言えば静かな作品のイメージが強かったのですが、本作のようにクライマックスで激しい銃撃戦のある作品は、新しい彼の境地と言えるかもしれません。
大げさな誇張がない演出ながら、ハイドリヒの暗殺に至るシーンからラストの激しい報復との戦いまで、スローテンポとアップテンポの対比があるサスペンスとして優れた映画です。

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