甘いマスクの猟奇殺人鬼!ギャスパー・ウリエルのレクター役が光る『ハンニバル・ライジング』
- 2018/06/15
- 00:36
よく思うことなんですが、サイコなキャラとか猟奇殺人鬼とかは、実は甘いマスクの俳優が演じたら映えるんじゃないかと。
例えば『悪の教典』ではラストにショットガンで生徒を惨殺しまくるサイコパス教師を伊藤英明が演じていましたが、見事なハマり役でした。
そして『クリーピー 偽りの隣人』に関しては香川照之がサイコパスのイカれた隣人を演じ、西島秀俊がその隣人に翻弄されながらも真相を追う元刑事を演じていましたが、演じる役がそれぞれ逆でも良かったのではと、個人的には思います。
これらは邦画の例ですが、今回取りあげたい作品は洋画です。
そしてサイコパスではなく、人肉食を好む猟奇殺人鬼の映画です。
レザーフェイス?…いえ、あちらのマスクは甘くはありません!
ハンニバル・レクターが登場するこちらです!
『ハンニバル・ライジング』(2007年 監督:ピーター・ウェーバー 出演:ギャスパー・ウリエル、コン・リー、リス・エヴァンス、ドミニク・ウェスト、リチャード・ブレイク、ケヴィン・マクキッド、スティーヴン・ウォルターズ 他)


ハンニバル・ライジング 完全版 プレミアム・エディション [DVD][→Amazon]
【あらすじ】──1944年のリトアニア。
名門貴族レクター家は、激化する東部戦線の戦禍から逃れるために住居であるレクター城から別居の隠れ家に移り住む。
しかし、戦闘に巻き込まれ、両親を失ったハンニバル・レクターは妹のミーシャと二人で身を隠すことになる。
そこにグルータス(リス・エヴァンス)ら対独協力者の一味がやって来て二人を拘束。
食料が尽きたところで一味はミーシャを殺し、ハンニバルの目の前で食べ始める。
8年後の成長したハンニバル(ギャスパー・ウリエル)はソ連の孤児として生活するも、ミーシャの悪夢に悩まされ逃亡。
フランスの叔父の家で未亡人のレディ・ムラサキ(コン・リー)とともに暮らす中、ミーシャを殺し食した一味の記憶をたどり、復讐を始める。──
☆単体の作品としても楽しめるレクターの原点
2007年と、ずいぶん前の映画なのですが、劇場で観た当時は私は『羊たちの沈黙』『ハンニバル』『レッド・ドラゴン』といったハンニバル・レクターが登場する他の作品を観たことがありませんでした。
そして未だに真剣に観たことがありません!
そんな私から見た本作『ハンニバル・ライジング』は、そもそも時系列としては最初の物語であるがゆえに、何の問題もなく楽しめてしまう作品です。
もちろん先に「ハンニバル・レクター」シリーズを知っている人には、また違った楽しみがあるでしょう。
しかし、このハンニバル・レクターの人格形成を描いた作品は単体の作品としても優れているというのが私の感想です。
第二次大戦の時代から始まり、その荒んだ世の中での人間の闇を感じさせられる部分も含め、奥行きのあるサスペンススリラーとして楽しめます。
幼少期のトラウマから、ただの復讐に燃える主人公としてではなく、自分自身が人肉食を好む猟奇殺人鬼となっていく異常な人物像は斬新な描写と言えます。
あるいは逆に、ただの猟奇殺人鬼としてではなく、幼少期のトラウマから復讐心を抱く若者と言う視点で見ても興味深い人物──
それが本作で当時の若手俳優ギャスパー・ウリエルが演じたハンニバル・レクターです。

自分の妹を殺して食べた憎きナチスの協力者を次々と殺していく痛快さとは裏腹に、彼を引き取ったレディ・ムラサキを失望させるほどに人間性を欠いていく様が実にグロテスクです。

ふつう、復讐に燃える主人公を描いた作品って、観ている者に共感を与えるものですよね?
しかし本作は到底そんなものとはかけ離れています。
本当に「ハンニバル・レクター」シリーズを全く知らない人が観たとしたら、その衝撃は知っている人より大きいでしょう。
戦争によって両親を失った兄と妹なんて、まるで『火垂るの墓』みたいな始まりからは想像もつかない展開でハンニバル・レクターの原点を見ることができる、ある種のエピソード1です!
★ギャスパー・ウリエルの狂気じみた演技
この作品ではアンソニー・ホプキンスの出演はなく、若き日のハンニバルをギャスパー・ウリエルが演じたわけですが、見事にヤバさ全開の狂気な表情を演技で見せます!

これを目的に観る作品と言っても良いくらいですね!
特にあの肉屋の男を日本刀で惨殺する直前の何かに酔いしれるような顔!
更には対独協力者の1人を捕まえて、馬につないだロープで木に首を巻きつけて絞め殺すシーン。
かえり血を顔に浴びながらの憎しみのこもった表情は、数ある猟奇殺人鬼の映画の中でも秀逸な絵になっています。


幼少期のトラウマからの復讐心を抱く青年からの日本刀の切れ味に魅せられた医学生──
そして更には人肉食へと向かっていくという、そもそもの人物設定が極めつけにゴツいですが、その人物を表現しきるギャスパー・ウリエルの甘いマスク!
もう完璧ですね。
そんなギャスパー・ウリエルは、本作以前に『ジェヴォーダンの獣』で映画デビューし、『ロング・エンゲージメント』や『パリ、ジュテーム』といったフランス映画に出演しています。
ですが、やっぱり本作『ハンニバル・ライジング』のハンニバル役があまりにインパクトが強すぎます。

ワイン片手に笑顔で復讐したい相手を追いつめていくシーンの彼の演技には美しいという言葉があてはまります。
☆コン・リーが演じる日本人女性
ハンニバルがフランスに逃亡し、叔父の家に向かったところで出逢うのは、叔父の妻であるレディ・ムラサキ。
日本人であるという設定が、その後のハンニバルが日本刀の切れ味や大阪の陣での生首の絵に魅せられるきっかけにつながっていきます。
それが最悪な方向に向かっていくのですが。
ハンニバルに剣道や日本の作法を教えるこのレディ・ムラサキを演じているのがコン・リーです。
日本のCMにも出演したことがある女優なのですが、ハリウッド進出したのは本作の2年前に公開されたロブ・マーシャル監督の『SAYURI』のときです。
そう、あちらでも日本人を演じていましたね!
日本の芸者の世界を描いた作品で、主要な人物を日本人じゃない女優たちが演じていたことで本国アメリカで批判があった作品です。
しかし、こちら『ハンニバル・ライジング』はというと何も気になりません。
リアリティはどうあれ、コン・リーが演じるこのレディ・ムラサキという未亡人が落ち着いた知的な女性で妙にセクシーです。
なにせコン・リーが知的でクールな顔なので、この役にイメージが合いすぎているのかもしれません。
ハンニバルとは少しばかり恋愛に近いところまで発展していくシーンが見受けられるレディ・ムラサキ。

ずいぶんな年の差になるでしょうけど、ハンニバルの気持ちはわからないでもないです。
こんな人をラストで泣かせるハンニバルは全くもって猟奇的な男です!
──さて、他の「ハンニバル・レクター」シリーズをしっかり観たことないクセに、この『ハンニバル・ライジング』が好きな私の語りでした。
アンソニー・ホプキンスが出ていないなんて!
と言う人もいるかもしれませんが、私の中ではギャスパーによる狂気じみた青年ハンニバル・レクターが見ていてクセになります。
そしてもう1つこの作品の魅力を語るなら、実は冒頭のシーンにあります。
物語の設定上、あたりまえですが、戦争時代の表現のクオリティの高さ。
猟奇殺人鬼の映画ながら、この始まり方だけ見たら、普通に第二次世界大戦の映画ですよね!
戦車に、飛んでいく戦闘機に。
ハンニバル・レクターの原点はこういう時代背景にあるんだということを思い返しながら、他の「ハンニバル・レクター」シリーズの映画を観たいと思えてきました。


ハンニバル・ライジング 完全版 プレミアム・エディション [DVD][→Amazon]
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例えば『悪の教典』ではラストにショットガンで生徒を惨殺しまくるサイコパス教師を伊藤英明が演じていましたが、見事なハマり役でした。
そして『クリーピー 偽りの隣人』に関しては香川照之がサイコパスのイカれた隣人を演じ、西島秀俊がその隣人に翻弄されながらも真相を追う元刑事を演じていましたが、演じる役がそれぞれ逆でも良かったのではと、個人的には思います。
これらは邦画の例ですが、今回取りあげたい作品は洋画です。
そしてサイコパスではなく、人肉食を好む猟奇殺人鬼の映画です。
レザーフェイス?…いえ、あちらのマスクは甘くはありません!
ハンニバル・レクターが登場するこちらです!
『ハンニバル・ライジング』(2007年 監督:ピーター・ウェーバー 出演:ギャスパー・ウリエル、コン・リー、リス・エヴァンス、ドミニク・ウェスト、リチャード・ブレイク、ケヴィン・マクキッド、スティーヴン・ウォルターズ 他)

【あらすじ】──1944年のリトアニア。
名門貴族レクター家は、激化する東部戦線の戦禍から逃れるために住居であるレクター城から別居の隠れ家に移り住む。
しかし、戦闘に巻き込まれ、両親を失ったハンニバル・レクターは妹のミーシャと二人で身を隠すことになる。
そこにグルータス(リス・エヴァンス)ら対独協力者の一味がやって来て二人を拘束。
食料が尽きたところで一味はミーシャを殺し、ハンニバルの目の前で食べ始める。
8年後の成長したハンニバル(ギャスパー・ウリエル)はソ連の孤児として生活するも、ミーシャの悪夢に悩まされ逃亡。
フランスの叔父の家で未亡人のレディ・ムラサキ(コン・リー)とともに暮らす中、ミーシャを殺し食した一味の記憶をたどり、復讐を始める。──
☆単体の作品としても楽しめるレクターの原点
2007年と、ずいぶん前の映画なのですが、劇場で観た当時は私は『羊たちの沈黙』『ハンニバル』『レッド・ドラゴン』といったハンニバル・レクターが登場する他の作品を観たことがありませんでした。
そして未だに真剣に観たことがありません!
そんな私から見た本作『ハンニバル・ライジング』は、そもそも時系列としては最初の物語であるがゆえに、何の問題もなく楽しめてしまう作品です。
もちろん先に「ハンニバル・レクター」シリーズを知っている人には、また違った楽しみがあるでしょう。
しかし、このハンニバル・レクターの人格形成を描いた作品は単体の作品としても優れているというのが私の感想です。
第二次大戦の時代から始まり、その荒んだ世の中での人間の闇を感じさせられる部分も含め、奥行きのあるサスペンススリラーとして楽しめます。
幼少期のトラウマから、ただの復讐に燃える主人公としてではなく、自分自身が人肉食を好む猟奇殺人鬼となっていく異常な人物像は斬新な描写と言えます。
あるいは逆に、ただの猟奇殺人鬼としてではなく、幼少期のトラウマから復讐心を抱く若者と言う視点で見ても興味深い人物──
それが本作で当時の若手俳優ギャスパー・ウリエルが演じたハンニバル・レクターです。

自分の妹を殺して食べた憎きナチスの協力者を次々と殺していく痛快さとは裏腹に、彼を引き取ったレディ・ムラサキを失望させるほどに人間性を欠いていく様が実にグロテスクです。

ふつう、復讐に燃える主人公を描いた作品って、観ている者に共感を与えるものですよね?
しかし本作は到底そんなものとはかけ離れています。
本当に「ハンニバル・レクター」シリーズを全く知らない人が観たとしたら、その衝撃は知っている人より大きいでしょう。
戦争によって両親を失った兄と妹なんて、まるで『火垂るの墓』みたいな始まりからは想像もつかない展開でハンニバル・レクターの原点を見ることができる、ある種のエピソード1です!
★ギャスパー・ウリエルの狂気じみた演技
この作品ではアンソニー・ホプキンスの出演はなく、若き日のハンニバルをギャスパー・ウリエルが演じたわけですが、見事にヤバさ全開の狂気な表情を演技で見せます!

これを目的に観る作品と言っても良いくらいですね!
特にあの肉屋の男を日本刀で惨殺する直前の何かに酔いしれるような顔!
更には対独協力者の1人を捕まえて、馬につないだロープで木に首を巻きつけて絞め殺すシーン。
かえり血を顔に浴びながらの憎しみのこもった表情は、数ある猟奇殺人鬼の映画の中でも秀逸な絵になっています。


幼少期のトラウマからの復讐心を抱く青年からの日本刀の切れ味に魅せられた医学生──
そして更には人肉食へと向かっていくという、そもそもの人物設定が極めつけにゴツいですが、その人物を表現しきるギャスパー・ウリエルの甘いマスク!
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ですが、やっぱり本作『ハンニバル・ライジング』のハンニバル役があまりにインパクトが強すぎます。

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こんな人をラストで泣かせるハンニバルは全くもって猟奇的な男です!
──さて、他の「ハンニバル・レクター」シリーズをしっかり観たことないクセに、この『ハンニバル・ライジング』が好きな私の語りでした。
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物語の設定上、あたりまえですが、戦争時代の表現のクオリティの高さ。
猟奇殺人鬼の映画ながら、この始まり方だけ見たら、普通に第二次世界大戦の映画ですよね!
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