黒沢清監督・役所広司主演『叫』──幽霊モノのホラー好きが求めるのってこういうのでは?
- 2018/07/08
- 22:10
暑い夏の時期に…いや、好きな者にとっては夏以外でも、ヒンヤリとした幽霊モノのホラーなんてのに飢えてくる感じがします。
しかし、怖いどころか静かすぎるばかりで、深夜にでも観れば寝落ちしそうなのが多いのもこの類いのジャンルだったりします。
そんな中でこちらの作品は珍しく心地よい冷寒で攻めてくれます(“霊感”ではなく!)
『叫』(2006年 監督・脚本:黒沢清 製作:一瀬隆重 出演:役所広司、小西真奈美、伊原剛志、オダギリジョー、葉月里緒菜、加瀬亮 他)


叫 プレミアム・エディション [DVD][→Amazon]
【あらすじ】──東京湾岸の埋め立て地で3件の殺人事件が発生。
いずれも水たまりに顔を押し付けられ、海水で溺死させられるという共通の手口であった。
刑事の吉岡登(役所広司)が捜査していく中で、現場から自分のジャケットのボタンが見つかったり、自分の指紋が検出される。
同僚の宮地徹(伊原剛志)から疑いの目を向けられながらも捜査をしていく吉岡の前に、赤い服を来た女の幽霊(葉月里緒菜)が現れるようになる。──


☆ヴェネチア国際映画祭などで上映されたミステリーホラー
この作品、2006年にヴェネチア国際映画祭などの各国映画祭で上映され、2007年に日本で公開されたとあります。
ここで何か受賞していれば、もっと有名な作品になっていたのでしょう。
スタッフ、キャストとも豪華ではありますが、邦画の中ではひっそりとしたアート重視な映画とも思えます。
全編にわたっていかにも怖い雰囲気の音楽を使うわけでもなく、音でビビらせるわけでもない。
人物たちの台詞のやりとりも落ち着いていて、ヨーロッパ産のマイナーな映画を観ているようです。
ミステリーの要素を主軸にしている映画としての深みはないものの、ストーリーのテンポが良く、心地よく成り行きを追っていけます。
所々で音でビビらせるだけで深みがないとか、雰囲気だけで見せて結局何が言いたいのかよくわからないバスレ感がないところは評価に値します。
メジャーな作品ではないでしょうけど、テンポの良さと静けさのバランスが取れているところは、90年代の有名な邦画ホラーに近い感覚でもあります。
★黒沢清&一瀬隆重
本作は監督と脚本、そして製作を手掛けた人たちがまた豪華です。
まずは監督・脚本の黒沢清。
映画監督であり脚本家でもある彼は本作だけでなく、あらゆる作品で監督と脚本の両方を手掛けています。
少なくとも私の思う限りでは、監督が脚本も務めている映画はだいたい良い作品が多いです。
その人の世界が色濃く反映されるだけに、観る人を選ぶこともあるでしょうけど、好きな人にとっては本当に好きと言える作品ができるのではないでしょうか。
黒沢監督の他の作品を見ると、『回路』に『ドッペルゲンガー』(←こちらも役所広司主演でした)、そして『リアル~完全なる首長竜の日~』と、どこかシュールな芸術性を感じる作品が多いです。
私が比較的最近、劇場で観た彼の作品であれば『クリーピー 偽りの隣人』と『散歩する侵略者』がありますが、こうして思い返してみても、こういう味の作品好き!っていう人にとってはどれもハズレなしなんではないでしょうか?
“ハデに見せるわけではなく、でも時には可笑しさも交えつつ、そして成り行きを見届けたくなる人物たちのやりとり”
これが、本作『叫』でも感じられる心地よさの正体かなと…。
そしてこの作品の製作を手掛けている一瀬隆重。
この方はもう数々の有名なホラー映画を手掛けている、これまたすばらしい映画プロデューサーですね!
代表は『リング』シリーズと『呪怨』シリーズ──
ホント個人的な好みですみませんが、どちらも好きなシリーズです。
それぞれ2者の同監督作品で他にあげれば『仄暗い水の底から』(中田秀夫監督)や『輪廻』(清水崇監督)がありますが、とにかくその他にもホラー映画といえば何かとエンドクレジットで「一瀬隆重」の名前を目にします。
さらにハリウッドで清水崇が監督を務めた映画『7500』や、台湾のホラー映画『屍憶 -SHIOKU-』もプロデュースしたり。
全くもって、ホラーという少なくとも今の日本映画界では決してメジャーではないジャンルの映画にここまで力を入れているわけで、ホラー映画が好きな者にとっては最高の映画プロデューサーでしょう。
ちなみに余談ですが、先に述べた黒沢清監督と一瀬隆重は二人とも兵庫県神戸市の出身であるというところもおもしろいですね。
何せ私の地元なもので、親近感わきます!
☆怖さがなくとも幽霊ホラーファン好みのタッチ
こうして先に述べた黒沢清監督の力によってなのか、本作は怖さの度合いは別にして、幽霊が出るホラー映画を好む人には心地よい暗さと湿度感があります。
実のところ、葉月里緒菜が演じる幽霊の登場シーンは怖さと笑いが紙一重といったところです。
いや!確かに家に帰って急にこんなものが現れたら怖いでしょうけど。

真に好感が持てるのは、血みどろな描写や音などに頼ることなく、使い古しながら日本人が昔から思い描いてきた“怖い幽霊のイメージ”で来ていることです。
なんだかんだでやっぱり幽霊モノのホラーはコレですよね?
コレがあるおかげで、先ほど言った「怖さの度合いは別にして」“動と静”の“静”で魅せる心地よいヒンヤリ感ができあがるんです。
そこにあまり音楽が使われていないことや、台詞の絶妙なリズム感も相まっての効果がチープともとれますが、やはり良い意味での味わいを醸しています。
欲を言えば、幽霊の役に有名な女優を使わないほうがより怖さが出ていたでしょう。
私は葉月里緒菜をよく知らないのでその点はあまり関係なかったですが、彼女をよく知っている人からすれば有名な女優が演じた美人な幽霊に映ってしまって怖さが半減してしまうでしょう。

とはいえ怖さだけではなく、その美しい女性の幽霊というところも魅力ではあります。
そしてそれにあわせて本作は、東京湾の泥臭い背景であるにも関わらず、映像世界がなぜか美しいと思ってしまったのは私だけでしょうか。

たとえ怖さがないとしても、ホラー映画は映像世界の美しさも評価ポイントになりうると考えている者としては結果的にこの作品は良作に入るわけであります。
──それにしてもこの作品、私はTSUTAYAでホラーではなく、ミステリーやサスペンスの作品の棚で見つけました。
おもしろければどちらの棚に置いても良いとは思うのですが、ホラーの棚にあればもっと早く見つけていたでしょう。
1つ言えるのは、ミステリー要素のあるホラー映画はやはり、意味がわからなくて寝てしまいそうになる作品もあれば、こうしていい感じに静けさとノリの良さのバランスが取れた良作にアタることもありますね!


叫 プレミアム・エディション [DVD][→Amazon]
ツイッターもよろしく!↓
https://twitter.com/ongaku_eiga
しかし、怖いどころか静かすぎるばかりで、深夜にでも観れば寝落ちしそうなのが多いのもこの類いのジャンルだったりします。
そんな中でこちらの作品は珍しく心地よい冷寒で攻めてくれます(“霊感”ではなく!)
『叫』(2006年 監督・脚本:黒沢清 製作:一瀬隆重 出演:役所広司、小西真奈美、伊原剛志、オダギリジョー、葉月里緒菜、加瀬亮 他)

【あらすじ】──東京湾岸の埋め立て地で3件の殺人事件が発生。
いずれも水たまりに顔を押し付けられ、海水で溺死させられるという共通の手口であった。
刑事の吉岡登(役所広司)が捜査していく中で、現場から自分のジャケットのボタンが見つかったり、自分の指紋が検出される。
同僚の宮地徹(伊原剛志)から疑いの目を向けられながらも捜査をしていく吉岡の前に、赤い服を来た女の幽霊(葉月里緒菜)が現れるようになる。──


☆ヴェネチア国際映画祭などで上映されたミステリーホラー
この作品、2006年にヴェネチア国際映画祭などの各国映画祭で上映され、2007年に日本で公開されたとあります。
ここで何か受賞していれば、もっと有名な作品になっていたのでしょう。
スタッフ、キャストとも豪華ではありますが、邦画の中ではひっそりとしたアート重視な映画とも思えます。
全編にわたっていかにも怖い雰囲気の音楽を使うわけでもなく、音でビビらせるわけでもない。
人物たちの台詞のやりとりも落ち着いていて、ヨーロッパ産のマイナーな映画を観ているようです。
ミステリーの要素を主軸にしている映画としての深みはないものの、ストーリーのテンポが良く、心地よく成り行きを追っていけます。
所々で音でビビらせるだけで深みがないとか、雰囲気だけで見せて結局何が言いたいのかよくわからないバスレ感がないところは評価に値します。
メジャーな作品ではないでしょうけど、テンポの良さと静けさのバランスが取れているところは、90年代の有名な邦画ホラーに近い感覚でもあります。
★黒沢清&一瀬隆重
本作は監督と脚本、そして製作を手掛けた人たちがまた豪華です。
まずは監督・脚本の黒沢清。
映画監督であり脚本家でもある彼は本作だけでなく、あらゆる作品で監督と脚本の両方を手掛けています。
少なくとも私の思う限りでは、監督が脚本も務めている映画はだいたい良い作品が多いです。
その人の世界が色濃く反映されるだけに、観る人を選ぶこともあるでしょうけど、好きな人にとっては本当に好きと言える作品ができるのではないでしょうか。
黒沢監督の他の作品を見ると、『回路』に『ドッペルゲンガー』(←こちらも役所広司主演でした)、そして『リアル~完全なる首長竜の日~』と、どこかシュールな芸術性を感じる作品が多いです。
私が比較的最近、劇場で観た彼の作品であれば『クリーピー 偽りの隣人』と『散歩する侵略者』がありますが、こうして思い返してみても、こういう味の作品好き!っていう人にとってはどれもハズレなしなんではないでしょうか?
“ハデに見せるわけではなく、でも時には可笑しさも交えつつ、そして成り行きを見届けたくなる人物たちのやりとり”
これが、本作『叫』でも感じられる心地よさの正体かなと…。
そしてこの作品の製作を手掛けている一瀬隆重。
この方はもう数々の有名なホラー映画を手掛けている、これまたすばらしい映画プロデューサーですね!
代表は『リング』シリーズと『呪怨』シリーズ──
ホント個人的な好みですみませんが、どちらも好きなシリーズです。
それぞれ2者の同監督作品で他にあげれば『仄暗い水の底から』(中田秀夫監督)や『輪廻』(清水崇監督)がありますが、とにかくその他にもホラー映画といえば何かとエンドクレジットで「一瀬隆重」の名前を目にします。
さらにハリウッドで清水崇が監督を務めた映画『7500』や、台湾のホラー映画『屍憶 -SHIOKU-』もプロデュースしたり。
全くもって、ホラーという少なくとも今の日本映画界では決してメジャーではないジャンルの映画にここまで力を入れているわけで、ホラー映画が好きな者にとっては最高の映画プロデューサーでしょう。
ちなみに余談ですが、先に述べた黒沢清監督と一瀬隆重は二人とも兵庫県神戸市の出身であるというところもおもしろいですね。
何せ私の地元なもので、親近感わきます!
☆怖さがなくとも幽霊ホラーファン好みのタッチ
こうして先に述べた黒沢清監督の力によってなのか、本作は怖さの度合いは別にして、幽霊が出るホラー映画を好む人には心地よい暗さと湿度感があります。
実のところ、葉月里緒菜が演じる幽霊の登場シーンは怖さと笑いが紙一重といったところです。
いや!確かに家に帰って急にこんなものが現れたら怖いでしょうけど。

真に好感が持てるのは、血みどろな描写や音などに頼ることなく、使い古しながら日本人が昔から思い描いてきた“怖い幽霊のイメージ”で来ていることです。
なんだかんだでやっぱり幽霊モノのホラーはコレですよね?
コレがあるおかげで、先ほど言った「怖さの度合いは別にして」“動と静”の“静”で魅せる心地よいヒンヤリ感ができあがるんです。
そこにあまり音楽が使われていないことや、台詞の絶妙なリズム感も相まっての効果がチープともとれますが、やはり良い意味での味わいを醸しています。
欲を言えば、幽霊の役に有名な女優を使わないほうがより怖さが出ていたでしょう。
私は葉月里緒菜をよく知らないのでその点はあまり関係なかったですが、彼女をよく知っている人からすれば有名な女優が演じた美人な幽霊に映ってしまって怖さが半減してしまうでしょう。

とはいえ怖さだけではなく、その美しい女性の幽霊というところも魅力ではあります。
そしてそれにあわせて本作は、東京湾の泥臭い背景であるにも関わらず、映像世界がなぜか美しいと思ってしまったのは私だけでしょうか。

たとえ怖さがないとしても、ホラー映画は映像世界の美しさも評価ポイントになりうると考えている者としては結果的にこの作品は良作に入るわけであります。
──それにしてもこの作品、私はTSUTAYAでホラーではなく、ミステリーやサスペンスの作品の棚で見つけました。
おもしろければどちらの棚に置いても良いとは思うのですが、ホラーの棚にあればもっと早く見つけていたでしょう。
1つ言えるのは、ミステリー要素のあるホラー映画はやはり、意味がわからなくて寝てしまいそうになる作品もあれば、こうしていい感じに静けさとノリの良さのバランスが取れた良作にアタることもありますね!

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