黒沢清監督『回路』──ハリウッドリメイクされていたの知らなかった!
- 2018/09/11
- 12:19
『叫』をブログで取り上げて以来、何かと黒沢清監督の作品を立て続けに観ていて、特に私がおもしろいと思ったのがこちら。
『回路』(2001年 監督・脚本:黒沢清 出演:加藤晴彦、麻生久美子、小雪、有坂来瞳、武田真治、水橋研二、役所広司 他)


回路 [DVD][→Amazon]
【あらすじ】──観葉植物の販売会社で勤務する工藤ミチ(麻生久美子)の目の前で同僚の田口(水橋研二)が自殺する。
それ以来、ミチの身近な人々が次々と姿を消してしまう。
一方、大学の川嶋亮介(加藤晴彦)はパソコンでインターネットを開いているときに、奇妙な部屋の中が映るサイトにアクセスする。
「幽霊に会いたいですか」というサイトからの謎の問いかけに戸惑う亮介の周囲にも受け入れ難い怪現象が起き始め、彼が思いを寄せている春江(小雪)までもが不可解な行動を取り始める。──

☆やはりこれが黒沢清監督の世界!
どの監督の映画にも同じことが言えますが、黒沢監督の映画は全くもって"黒沢監督の世界"ができあがっていますね!
ここまでその人の世界がわかりやすく現れている監督はそういないのではないでしょうか。
具体的に言えば、黒沢監督の映画は、ホラーよりな作品であっても、サスペンススリラーな作品であっても、大きな起伏で演出せずに、ただただ静かでいて後に引く余韻がある演出なんですね。
あまり派手な音楽は使われず、人物たちの声以上に、周囲の何気ない物音が強調されているくらいに物静かです。
その空気感がなんとも言えない心地よさがあってクセになります!
最初は退屈に感じるかもしれませんし、私が勝手にどうでもいいようなところに観点を持ってしまってるかもしれませんが、同監督の作品をいつくか観ているうちに身に付いた感覚なのでしょう。
そして人物たちを引き気味で映した画面で、割りと長めの台詞のやり取りがなされるような構図が多く見受けられます。
奇妙でおかしな状況におかれている者たちを、やや遠目で眺めさせられているような感覚。
これらの構図がますます作品の世界のおかしさを盛り上げてしまっているんですね。
★意味不明なところもまたホラー
2001年に公開された本作。
この頃はまだパソコンってこんな感じだったかなと、ふと考えてしまいました。
ここで見られるパソコンに比べたら、今のパソコンは画面もクリアでカッコよくなったものだなんて、改めて思ってしまうのですが…
しかし、本作で見られる古いパソコンもこの作品の映像世界においてはなんとも言えない味わいがあります。
湿度感やカビ臭さすら伝わりそうなその画面では、舞台演出の小道具になり得ています。
(当時はこれでも新しかったのでしょうけど…)


そこに人間の生存環境をシミュレーションしているというグラフィックが不気味に動き回る様が、どこか鈴木光司の世界を見ているようです。
誰かの原作小説を基に制作された映画ではないのですが、脚本も手掛けた黒沢監督は『リング』などの世界観からインスピレーションを得ていたのでしょうか?
"霊魂のいるエリアは無限ではなく、限界に達したらこちらの世界に進出するようになる"
武田真治が演じる吉崎という学生がそんなような説を語るシーンも相まって(実際の台詞では全く違う言いまわしだったかもしれませんが)、SFも絡めた幽霊への概念がおもしろい発想です。
ただ、結局のところ何がどうなってしまっているの?と、あくまで最後まで疑問が残る作品で、観た後は腑に落ちないという人も多いでしょう。

はっきりとした説明がないままにしておくことで、なすすべもなく逃避行する主人公たちに感情移入できるところも含めて、黒沢監督なりの恐怖演出と言えます。

絶望感と、それ以上のなんじゃこりゃ?で終わる作品です。
☆主演俳優・加藤晴彦という貴重さ
以前の『アナザヘヴン』を取りあげたブログでも述べたのですが、最近すっかり見なくなった加藤晴彦。
映画出演はおそらく2007年の『口裂け女』が今のところ最後で、私もその作品で見て以来です。
本作『回路』では初主演作だったようで、その翌年2002年の『AIKI』では、交通事故で下半身不随になったボクサーが「大東流合気柔術」という武術との出逢いで立ち直り成長していく主人公を演じていました。
あの難役をこなしていた加藤晴彦は本作『回路』では、よくわからないままインターネットを始めて思わぬ恐怖に直面する主人公を好演しています。

持ち前の顔だけでなく、主演のポジションについたらそれに呼応して画面に映える演技力がある俳優ですね。
だから最近映画で見なくなったのが惜しいところなんです。
そんな加藤晴彦が主役を演じていて、その魅力をしっかり見られる点も本作の見所です。
パソコンに詳しくないけど、なんとなくインターネットを始めたという純朴な学生が奇妙な体験を通して、思いを寄せている女性を助けようとしながら奔走するという彼の演技を今、再評価しても良いでしょう。
★存在感が薄くないか?ハリウッドリメイク版
この作品、2006年にはハリウッドリメイク版が公開されています。
タイトルは『パルス』


パルス-回路- アンレイテッド・バージョン [DVD][→Amazon]
人物の設定に変更点はあるものの、ストーリーはだいたいオリジナルに忠実です。
意味不明なまま絶望的なラストに向かうところもそのままで、あらかじめオリジナルの世界観を知った後でリメイク版を観れば、難なく内容を呑み込めるでしょう。
そもそもこの意味不明なところも含めてのホラーなのだから!
ただ、ハリウッド映画ならではのわかりやすさと言うべきか、リメイク版のほうがなんとなく人物の振る舞いやストーリーの展開にスピード感が付いている気はします。

"黒沢清流"の物静かな雰囲気とは違うので、その辺りの違いを見比べる意味で、オリジナルと併せて観てみると良いでしょう。
それにしても、存在感の薄い日本映画のハリウッドリメイク作品です。
「こんなのあったんだ!」と、私はけっこう後になってから知りました。
単に私が無知なだけかもしれませんが、『リング』や『呪怨』のハリウッド版と比べたら、やはり存在感が薄い気がします。
水橋研二が演じる田口に相当する人物が自殺し、その人物のパソコンを、おそらくは加藤晴彦が演じる亮介に相当する人物が買い取り、謎のサイトを開いてしまうという流れはすばらしいのですが。
もし、日本で先にオリジナルが制作されていなかったとして、このハリウッド版がオリジナルとして制作されていたら、それはそれで良作になっていたかもしれません。
もちろん、これは黒沢清というすばらしい監督・脚本家による作品が先にあるという誇らしい話しであって、だからこそ『リング』や『呪怨』と肩を並べてメジャーに語られても良い作品と言えます。


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→黒沢清監督・役所広司主演『叫』──幽霊モノのホラー好きが求めるのってこういうのでは?
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『回路』(2001年 監督・脚本:黒沢清 出演:加藤晴彦、麻生久美子、小雪、有坂来瞳、武田真治、水橋研二、役所広司 他)

【あらすじ】──観葉植物の販売会社で勤務する工藤ミチ(麻生久美子)の目の前で同僚の田口(水橋研二)が自殺する。
それ以来、ミチの身近な人々が次々と姿を消してしまう。
一方、大学の川嶋亮介(加藤晴彦)はパソコンでインターネットを開いているときに、奇妙な部屋の中が映るサイトにアクセスする。
「幽霊に会いたいですか」というサイトからの謎の問いかけに戸惑う亮介の周囲にも受け入れ難い怪現象が起き始め、彼が思いを寄せている春江(小雪)までもが不可解な行動を取り始める。──

☆やはりこれが黒沢清監督の世界!
どの監督の映画にも同じことが言えますが、黒沢監督の映画は全くもって"黒沢監督の世界"ができあがっていますね!
ここまでその人の世界がわかりやすく現れている監督はそういないのではないでしょうか。
具体的に言えば、黒沢監督の映画は、ホラーよりな作品であっても、サスペンススリラーな作品であっても、大きな起伏で演出せずに、ただただ静かでいて後に引く余韻がある演出なんですね。
あまり派手な音楽は使われず、人物たちの声以上に、周囲の何気ない物音が強調されているくらいに物静かです。
その空気感がなんとも言えない心地よさがあってクセになります!
最初は退屈に感じるかもしれませんし、私が勝手にどうでもいいようなところに観点を持ってしまってるかもしれませんが、同監督の作品をいつくか観ているうちに身に付いた感覚なのでしょう。
そして人物たちを引き気味で映した画面で、割りと長めの台詞のやり取りがなされるような構図が多く見受けられます。
奇妙でおかしな状況におかれている者たちを、やや遠目で眺めさせられているような感覚。
これらの構図がますます作品の世界のおかしさを盛り上げてしまっているんですね。
★意味不明なところもまたホラー
2001年に公開された本作。
この頃はまだパソコンってこんな感じだったかなと、ふと考えてしまいました。
ここで見られるパソコンに比べたら、今のパソコンは画面もクリアでカッコよくなったものだなんて、改めて思ってしまうのですが…
しかし、本作で見られる古いパソコンもこの作品の映像世界においてはなんとも言えない味わいがあります。
湿度感やカビ臭さすら伝わりそうなその画面では、舞台演出の小道具になり得ています。
(当時はこれでも新しかったのでしょうけど…)


そこに人間の生存環境をシミュレーションしているというグラフィックが不気味に動き回る様が、どこか鈴木光司の世界を見ているようです。
誰かの原作小説を基に制作された映画ではないのですが、脚本も手掛けた黒沢監督は『リング』などの世界観からインスピレーションを得ていたのでしょうか?
"霊魂のいるエリアは無限ではなく、限界に達したらこちらの世界に進出するようになる"
武田真治が演じる吉崎という学生がそんなような説を語るシーンも相まって(実際の台詞では全く違う言いまわしだったかもしれませんが)、SFも絡めた幽霊への概念がおもしろい発想です。
ただ、結局のところ何がどうなってしまっているの?と、あくまで最後まで疑問が残る作品で、観た後は腑に落ちないという人も多いでしょう。

はっきりとした説明がないままにしておくことで、なすすべもなく逃避行する主人公たちに感情移入できるところも含めて、黒沢監督なりの恐怖演出と言えます。

絶望感と、それ以上のなんじゃこりゃ?で終わる作品です。
☆主演俳優・加藤晴彦という貴重さ
以前の『アナザヘヴン』を取りあげたブログでも述べたのですが、最近すっかり見なくなった加藤晴彦。
映画出演はおそらく2007年の『口裂け女』が今のところ最後で、私もその作品で見て以来です。
本作『回路』では初主演作だったようで、その翌年2002年の『AIKI』では、交通事故で下半身不随になったボクサーが「大東流合気柔術」という武術との出逢いで立ち直り成長していく主人公を演じていました。
あの難役をこなしていた加藤晴彦は本作『回路』では、よくわからないままインターネットを始めて思わぬ恐怖に直面する主人公を好演しています。

持ち前の顔だけでなく、主演のポジションについたらそれに呼応して画面に映える演技力がある俳優ですね。
だから最近映画で見なくなったのが惜しいところなんです。
そんな加藤晴彦が主役を演じていて、その魅力をしっかり見られる点も本作の見所です。
パソコンに詳しくないけど、なんとなくインターネットを始めたという純朴な学生が奇妙な体験を通して、思いを寄せている女性を助けようとしながら奔走するという彼の演技を今、再評価しても良いでしょう。
★存在感が薄くないか?ハリウッドリメイク版
この作品、2006年にはハリウッドリメイク版が公開されています。
タイトルは『パルス』

人物の設定に変更点はあるものの、ストーリーはだいたいオリジナルに忠実です。
意味不明なまま絶望的なラストに向かうところもそのままで、あらかじめオリジナルの世界観を知った後でリメイク版を観れば、難なく内容を呑み込めるでしょう。
そもそもこの意味不明なところも含めてのホラーなのだから!
ただ、ハリウッド映画ならではのわかりやすさと言うべきか、リメイク版のほうがなんとなく人物の振る舞いやストーリーの展開にスピード感が付いている気はします。

"黒沢清流"の物静かな雰囲気とは違うので、その辺りの違いを見比べる意味で、オリジナルと併せて観てみると良いでしょう。
それにしても、存在感の薄い日本映画のハリウッドリメイク作品です。
「こんなのあったんだ!」と、私はけっこう後になってから知りました。
単に私が無知なだけかもしれませんが、『リング』や『呪怨』のハリウッド版と比べたら、やはり存在感が薄い気がします。
水橋研二が演じる田口に相当する人物が自殺し、その人物のパソコンを、おそらくは加藤晴彦が演じる亮介に相当する人物が買い取り、謎のサイトを開いてしまうという流れはすばらしいのですが。
もし、日本で先にオリジナルが制作されていなかったとして、このハリウッド版がオリジナルとして制作されていたら、それはそれで良作になっていたかもしれません。
もちろん、これは黒沢清というすばらしい監督・脚本家による作品が先にあるという誇らしい話しであって、だからこそ『リング』や『呪怨』と肩を並べてメジャーに語られても良い作品と言えます。

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- テーマ:映画感想
- ジャンル:映画
- カテゴリ:ホラー映画
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