『ラブ&ピース』──園子温監督によるファンタジックでピュアな世界
- 2018/11/10
- 22:20
過去ブログの中で園子温監督の名前をよく口にしている割には同監督の作品をブログに書いたことはかなり少ないなと、自分で思っていました。
そして園子温監督の数ある作品の中でも特に自分の中でインパクトが強いのがこちらです。
『ラブ&ピース』(2015年 監督・脚本:園子温 主演:長谷川博己、麻生久美子、渋川清彦、西田敏行、神楽坂恵 他)


ラブ&ピース コレクターズ・エディション(Blu-ray初回限定版)[→Amazon]
【あらすじ】──ロックミュージシャンだった鈴木良一(長谷川博己)は、あまりにもファンがつかぬまま挫折し、楽器部品メーカーのサラリーマンとして勤務していた。
そんな彼は同僚の寺島裕子(麻生久美子)にひそかに想いを寄せていた。
ある日、良一は一匹のミドリガメと出会ったことにより転機が訪れて、再びロックスターへの道を駆け上がるが…。──
☆園子温監督のファンタジックな世界が前面に
私が初めて観た園子温監督作品は、トリンドル玲奈が主演の2015年の作品『リアル鬼ごっこ』です。
バカバカしくもやりたいほうだいなあの残虐描写!
その後にDVDで観た『冷たい熱帯魚』や『地獄でなぜ悪い Why don’t you play in hell?』『恋の罪』などもあって、なるほど!
そういうので魅せる監督か!
なんて思っていたのですが、それだけではないメッセージ性ある作品を多数作り出している監督なんですね!
本作『ラブ&ピース』はそれこそ残虐描写もエロもない!
笑いも交えた感動で魅せる実にピュアな作品です。
売れない、冴えない元ロックミュージシャンのサクセスストーリーかと思えば、捨てられた玩具やペットたちが会話するファンタジックな表現。

長谷川博己が演じる主人公の幻覚ともとれる日常空間から一転しての、西田敏行が演じるホームレスみたいな男が作り出す地下世界の空間。

まるで主人公が2人いるような、2つの世界での時間が別々で流れているような前半から、最後にはちゃんと1つにつながっているこの感覚が不思議です。
場面ごとにそれぞれの主人公がいるかのようなゴチャゴチャ感の中でもしっかりストーリーが成り立っているところが園子温監督の特徴の1つですね。
それにしてもワイドショーのシーンで主人公をけなしまくるために有名コメンテーターを使う力の入れよう。

それもリアリティの追及というよりは、園子温の世界らしい痛々しさを見せる手段となっていますね!
で、何気ないちょい役に真野恵里菜!

…と、それはさておき、これだけ主人公がボロボロになるシーンを先に見せているからこその、西田敏行のシーンとの対比が凄まじく映ります。
しかし、先にも述べたように、本作は暴力シーンやエロ描写もないので、いい感じに西田敏行のファンタジックなシーンが勝っているんです!
だから子どもといっしょに観ても笑いあり感動ありで、その点は園子温監督としては珍しい作風と言えるかもしれません。
★神楽坂恵の出演がさりげなく!
真野恵里菜もそうですが、本作はホントに何気ない人物に有名役者や、同監督の作品に常連の役者を起用している力の入れようにニヤリとさせられます。
長谷川博己と並ぶ主役級の西田敏行もすばらしい演技力だし、レコード会社のマネージャーを演じている渋川清彦の存在感もすばらしいのですが。
そして麻生久美子が演じている地味でいてかわいいキャラも最高なのですが──

それよりも何よりも、クリスマスの街中で子どもを連れて歩く母親を演じているのが神楽坂恵であることによって、やはり園子温監督の作品を観ているんだという感覚を呼びおこされます。
『冷たい熱帯魚』『恋の罪』と、その巨乳を惜し気もなくさらす過激なヌードがあまりにも印象が強いですが、他にも『ヒミズ』『みんな!エスパーだよ!』と、さりげない脇役からかなり目立った役まで、数多くの同監督作品に出演しています。
『ひそひそ星』というあのアーティスティックな作品では、シュールな役柄で主演を演じていましたね!
本作『ラブ&ピース』では、もうすっかりファミリー向け映画によく登場するママさんになっています。
そのさりげない役ながら、あの捨てられた人形の切ない場面を演出するうえでの重要な役でもあります。
短いながら作品の持つメッセージを最も伝えている場面に、同監督作品のお馴染みの女優を持ってきて、アッと思わせるのもまた計算のうちなのか。
無名な役者を使っても成り立ちそうな役でも、こうして知ってる役者が演じているのは、実のところ作品に思わぬリズム感ができるものです。
☆そしてラストは怪獣映画に!
見方によってはいろいろ詰め込みすぎか…
ミュージシャンのサクセスストーリーと恋愛、捨てられた玩具やペットの目線を通したファンタジー要素ときて、最後はミドリガメが巨大化して、まるで怪獣映画となっているこの映画。

ある意味、長谷川博己が『シン・ゴジラ』より先に出演した怪獣映画です。
この巨大化したカメの特撮シーンは、ウルトラマンシリーズなどを手掛けていた田口清隆が特技監督を務めるという本格ぶりです。
(しかし、おかしくて笑えるシーンですが…)
そのカメが、怪獣クラスに巨大化する前に科学者たちの研究材料として捕獲されるシーンときたら!
本作の主演が長谷川博己ではなく、もしも津田寛治だったら──
あのカメ怪獣映画のパロディになっていたところでしょう。
意味がわかる人は正直に挙手!
そんな巨大ガメがライブ会場のスタジアムまでやってくるわけですが…
だからやっぱりいろいろ詰め込みすぎだよ、監督!
でもそれでいいんですよ。
ここまで大げさに演出して、それで観ていて楽しいのは事実ですから。
それに同じ怪獣映画であれば、こちらの長谷川博己のほうが個人的には好きです。
(シンゴジと比較すな↑)
何せ冒頭からラストまでの間の長谷川博己の変貌ぶりが最高です!
会社の制服姿のままストリートで歌うメガネの長谷川博己からの、河村隆一みたいなメイクと髪型でスターダムにのしあがる長谷川博己(そこからさらにローリー寺西といったところか)と、もう見事な化け方ですよ!

これだけの役を演じきる長谷川博己の実力と、1人の俳優をこれだけ濃いキャラクターに昇華させる園子温監督の腕によるタッグもまた本作の見どころです。
──さて、もっと古い作品で言えば『自殺サークル』みたいに、エグい演出を堂々とやってのける監督というイメージが私の中では強い園子温ですが、実はすごく少年っぽい一面を誰よりも持っている監督だなと思うときがあります。
その純粋さゆえに、過激な演出や描写も隠さずに表現しきるのが同監督のスタイルと見ることができますね。
おそらくほとんど、もしくは全ての作品で本人が脚本を兼ねていますが、だからこそ自身の中の"こういうものが作りたいんだ!"というアーティスト精神が直に伝わってきます。
決して綺麗なものばかりではない。
すっちゃかめっちゃかした内容なのに、そこから感動を呼び込む。
そんな監督の魔法が最高にピュアな形で発揮されているのがこの『ラブ&ピース』なのではと私は思います。


ラブ&ピース スタンダード・エディション(Blu-ray)


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そして園子温監督の数ある作品の中でも特に自分の中でインパクトが強いのがこちらです。
『ラブ&ピース』(2015年 監督・脚本:園子温 主演:長谷川博己、麻生久美子、渋川清彦、西田敏行、神楽坂恵 他)

【あらすじ】──ロックミュージシャンだった鈴木良一(長谷川博己)は、あまりにもファンがつかぬまま挫折し、楽器部品メーカーのサラリーマンとして勤務していた。
そんな彼は同僚の寺島裕子(麻生久美子)にひそかに想いを寄せていた。
ある日、良一は一匹のミドリガメと出会ったことにより転機が訪れて、再びロックスターへの道を駆け上がるが…。──
☆園子温監督のファンタジックな世界が前面に
私が初めて観た園子温監督作品は、トリンドル玲奈が主演の2015年の作品『リアル鬼ごっこ』です。
バカバカしくもやりたいほうだいなあの残虐描写!
その後にDVDで観た『冷たい熱帯魚』や『地獄でなぜ悪い Why don’t you play in hell?』『恋の罪』などもあって、なるほど!
そういうので魅せる監督か!
なんて思っていたのですが、それだけではないメッセージ性ある作品を多数作り出している監督なんですね!
本作『ラブ&ピース』はそれこそ残虐描写もエロもない!
笑いも交えた感動で魅せる実にピュアな作品です。
売れない、冴えない元ロックミュージシャンのサクセスストーリーかと思えば、捨てられた玩具やペットたちが会話するファンタジックな表現。

長谷川博己が演じる主人公の幻覚ともとれる日常空間から一転しての、西田敏行が演じるホームレスみたいな男が作り出す地下世界の空間。

まるで主人公が2人いるような、2つの世界での時間が別々で流れているような前半から、最後にはちゃんと1つにつながっているこの感覚が不思議です。
場面ごとにそれぞれの主人公がいるかのようなゴチャゴチャ感の中でもしっかりストーリーが成り立っているところが園子温監督の特徴の1つですね。
それにしてもワイドショーのシーンで主人公をけなしまくるために有名コメンテーターを使う力の入れよう。

それもリアリティの追及というよりは、園子温の世界らしい痛々しさを見せる手段となっていますね!
で、何気ないちょい役に真野恵里菜!

…と、それはさておき、これだけ主人公がボロボロになるシーンを先に見せているからこその、西田敏行のシーンとの対比が凄まじく映ります。
しかし、先にも述べたように、本作は暴力シーンやエロ描写もないので、いい感じに西田敏行のファンタジックなシーンが勝っているんです!
だから子どもといっしょに観ても笑いあり感動ありで、その点は園子温監督としては珍しい作風と言えるかもしれません。
★神楽坂恵の出演がさりげなく!
真野恵里菜もそうですが、本作はホントに何気ない人物に有名役者や、同監督の作品に常連の役者を起用している力の入れようにニヤリとさせられます。
長谷川博己と並ぶ主役級の西田敏行もすばらしい演技力だし、レコード会社のマネージャーを演じている渋川清彦の存在感もすばらしいのですが。
そして麻生久美子が演じている地味でいてかわいいキャラも最高なのですが──

それよりも何よりも、クリスマスの街中で子どもを連れて歩く母親を演じているのが神楽坂恵であることによって、やはり園子温監督の作品を観ているんだという感覚を呼びおこされます。
『冷たい熱帯魚』『恋の罪』と、その巨乳を惜し気もなくさらす過激なヌードがあまりにも印象が強いですが、他にも『ヒミズ』『みんな!エスパーだよ!』と、さりげない脇役からかなり目立った役まで、数多くの同監督作品に出演しています。
『ひそひそ星』というあのアーティスティックな作品では、シュールな役柄で主演を演じていましたね!
本作『ラブ&ピース』では、もうすっかりファミリー向け映画によく登場するママさんになっています。
そのさりげない役ながら、あの捨てられた人形の切ない場面を演出するうえでの重要な役でもあります。
短いながら作品の持つメッセージを最も伝えている場面に、同監督作品のお馴染みの女優を持ってきて、アッと思わせるのもまた計算のうちなのか。
無名な役者を使っても成り立ちそうな役でも、こうして知ってる役者が演じているのは、実のところ作品に思わぬリズム感ができるものです。
☆そしてラストは怪獣映画に!
見方によってはいろいろ詰め込みすぎか…
ミュージシャンのサクセスストーリーと恋愛、捨てられた玩具やペットの目線を通したファンタジー要素ときて、最後はミドリガメが巨大化して、まるで怪獣映画となっているこの映画。

ある意味、長谷川博己が『シン・ゴジラ』より先に出演した怪獣映画です。
この巨大化したカメの特撮シーンは、ウルトラマンシリーズなどを手掛けていた田口清隆が特技監督を務めるという本格ぶりです。
(しかし、おかしくて笑えるシーンですが…)
そのカメが、怪獣クラスに巨大化する前に科学者たちの研究材料として捕獲されるシーンときたら!
本作の主演が長谷川博己ではなく、もしも津田寛治だったら──
あのカメ怪獣映画のパロディになっていたところでしょう。
意味がわかる人は正直に挙手!
そんな巨大ガメがライブ会場のスタジアムまでやってくるわけですが…
だからやっぱりいろいろ詰め込みすぎだよ、監督!
でもそれでいいんですよ。
ここまで大げさに演出して、それで観ていて楽しいのは事実ですから。
それに同じ怪獣映画であれば、こちらの長谷川博己のほうが個人的には好きです。
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何せ冒頭からラストまでの間の長谷川博己の変貌ぶりが最高です!
会社の制服姿のままストリートで歌うメガネの長谷川博己からの、河村隆一みたいなメイクと髪型でスターダムにのしあがる長谷川博己(そこからさらにローリー寺西といったところか)と、もう見事な化け方ですよ!

これだけの役を演じきる長谷川博己の実力と、1人の俳優をこれだけ濃いキャラクターに昇華させる園子温監督の腕によるタッグもまた本作の見どころです。
──さて、もっと古い作品で言えば『自殺サークル』みたいに、エグい演出を堂々とやってのける監督というイメージが私の中では強い園子温ですが、実はすごく少年っぽい一面を誰よりも持っている監督だなと思うときがあります。
その純粋さゆえに、過激な演出や描写も隠さずに表現しきるのが同監督のスタイルと見ることができますね。
おそらくほとんど、もしくは全ての作品で本人が脚本を兼ねていますが、だからこそ自身の中の"こういうものが作りたいんだ!"というアーティスト精神が直に伝わってきます。
決して綺麗なものばかりではない。
すっちゃかめっちゃかした内容なのに、そこから感動を呼び込む。
そんな監督の魔法が最高にピュアな形で発揮されているのがこの『ラブ&ピース』なのではと私は思います。


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