『ANON アノン』──心地よい静けさで眠くなり、アマンダ・セイフライドの魅力で目が覚める!
- 2019/08/10
- 21:47
眠気覚ましに、どころか眠気を誘うような静か~な展開のSF映画だなと思ったら、監督はあの『ガタカ』のアンドリュー・ニコルです。
最近のであれば『ドローン・オブ・ウォー』
少なくともこの2つを観たときの印象に、静かな映画だなというのがありました。
こういう作品に、深いなとかメッセージ性があるなと述べてしまえばありきたりな感想になってしまいそうです。
しかしこの『ANON アノン』に関しては深いメッセージ性どころか、それまでにも数多く作られているようなSFの要素を超薄味にしてしまったような作品に思えます。
にも関わらず、眠気をこらえながら深夜にひっそりと最後まで観ていたくなる、心地よい作品でもあります。
『ANON アノン』(2018年 脚本・監督:アンドリュー・ニコル 出演:クライブ・オーウェン、アマンダ・セイフライド 他)


ANON アノン [DVD][→Amazon]
【あらすじ】──地球上の全ての人間の記憶が記録され検問される近未来では犯罪が不可能となった代わりに人々のプライバシーや匿名性は失われていた。
そんな中、不可解な殺人事件が発生する。
サル・フリーラン刑事(クライブ・オーウェン)は、個人を特定できない"記録のない女"(アマンダ・セイフライド)を目撃し、彼女を追跡する。──

☆派手さのないディストピア描写
本作はあらすじにもあるとおり、地球上の全ての人間の記憶が記録され検問できるようになり、犯罪が不可能な世界を描いています。
警察は人の記憶にアクセスできてしまうので、殺人などが起きても被害者の殺される直前の記憶を見れば誰が犯人かもわかるし、それこそ犯人側の目線の記憶も見られるわけです。
完璧な管理ができる社会ではあるのですが、そんな世の中を良く思う人は少ないでしょう。
よくこういう舞台設定をディストピアという言葉で表現され、似たような世界を描いた映画は多く見受けられます。
ただ、その中でも本作はそのディストピアの描写がソフトです。
冒頭ではこの管理システムを使った捜査の依頼をする人々の姿に焦点があてられ、システムそのものに不満を抱いている人のシーンはありません。
むしろこれで平和な社会が築かれているから納得しているという雰囲気すら映像から伝わります。
しかしそれこそがディストピアと言えるのでしょう。
これが普通と思い込んでいつもどおりの日常の中にいる人々の姿。
その管理体制に立ち向かおうとする民衆の姿が最初から現れないところは本来コワいはずです。
それなのに、そのヒンヤリとした世界観を心地よく静観していられます。

いかにも悪どい形相の権力者なる者もいません。
心地よく観ていられる要因は、こういう世界を単純な良し悪しで判断させる描き方ではないところにあります。
とにかく安全で平和で、何ら不便はなさそうな世界というのを淡々とシュールな絵として眺めているような感覚に身を任せてしまいそうです。
★派手さのない近未来の描写
本作は近未来を描いた作品ですが、具体的な時代は示していないようです。
その中で、現代と地続きな日常空間がシーンの1つひとつに見受けられます。
ビル群に現れるホログラムの企業広告によって、確かに未来を感じさせる表現はされているものの、サイバーパンク映画にある混沌とした世界とは違います。
そして本作の描く世界の要ともなっている記憶の検問システムは、ただ人物たちの視界に、別の人間の記憶がその人間の視点で再生されるというものです。

また、街中ですれ違う全ての人々の名前やデータが表示されるというものです。
この辺りはサイバーパンク映画でよく見る電脳通信のようなシステムですが、どの人物たちも見た目は普通の人間です。

VRやARのような端末を身につけているわけでもなく、サイボーグのような姿をした者も登場しません。
グレーやブルーで表現された色彩感。


その中で描かれるごく普通の姿をした人物たち。
SFといっても科学的な世界ではなく、それがシステムとしてできあがった先での人間社会を文学的な視点で堪能できる作品です。
☆最高にドライなセクシュアル描写
さて、飽くまでヒンヤリ冷製な未来世界を描いた本作ですが、あからさまなベッドシーンがしっかりある作品でもあります。
この二面性はやはりヨーロッパ映画の特徴なのでしょうか。
同性愛カップルのシーンやコールガールのシーン。
クライブ・オーウェンが演じる刑事も硬派な人物ながら、コールガールを利用する場面があり、そういうところには人間らしさを感じさせられます。

だからといって、殺人事件の犯人を追跡するために自身のデータを偽造してコールガールと行為に及ぶところは大変だなと思います。
刑事の仕事かよ!
と、突っ込みたくなりそうですが、これがストーリーを成り立たせるために必要なんですね。
やっぱりこの思いきりな表現はヨーロッパ映画らしい気がします。
ただしそんなセクシュアルな演出も本作においてはドライな仕上がりです。
たとえハイテクな未来でも、こういう場でやることはみんな同じだというのをむしろ淡々と見せてくれています。
他人の記憶を見ることができれば、そこに映る光景に付き物なのを、隠さず表現しています。
こんなプライバシーもへったくれもないシステムが本当に開発され、それが当たり前になれば、性生活を警察などに覗かれるのも案外抵抗が薄れるのかもしれません。
そのセクシュアル描写においては、重要な鍵をにぎる人物を演じるアマンダ・セイフライドも例外じゃないのは、ファンにとってはうれしいことなのでしょうか。
ここでは至高のクールビューティとも言える人物像の謎の女が、意外と大胆に見せてくれちゃいます。
寝そうなくらい静かな中で、ここだけは良い目覚ましになるかもしれません。
★ブルネットのアマンダ・セイフライドがカッコいい!
ご存知の方もいるかと思いますが、本作の監督アンドリュー・ニコルは『TIME/タイム』(2011年)の監督を務めており、その作品でもアマンダ・セイフライドが出演しています。
あちらの作品でのアマンダ・セイフライドはもっとツンとした顔つきでした。
あれから8年たって、本作『ANON アノン』では役作りによるものが大きいかと思いますが、あのツンとした感じが薄れて、それでいてクールな色気があります。

そしてそのミステリアスな雰囲気がカッコいいんです!
ブルネットの髪だからといってナチュラルというわけではなく、可愛さがありつつ大人びた魅力もある。
あの頃より良いではないですか!
そう、とにかく私は本作のアマンダ・セイフライドが最高に好きです!

もともと、その他の出演作やいろいろな画像で見ても彼女はブロンドのイメージが強くそれが魅力的です。
しかし本作ではその映像世界からしてブルネットや黒髪あたりがマッチしていますね(考え方としてはマトリックスに近い!)。
完全な管理社会を舞台に、そこに唯一描かれている静かなる反逆者を演じている彼女。
スタイリッシュでクールな世界観に、スタイリッシュでクールでミステリアスなアマンダ・セイフライドを見られるだけでも、本作を観る価値があるでしょう。
──というわけで、同監督の特に『ガタカ』や『TIME/タイム』のような有名作品に比べると、特別多くを語られる内容ではありません。
これがそこそこの大作として製作されていたなら、その記憶の管理システムというのをもっと深く掘り下げて描写できていたのではないでしょうか。
あるいはアマンダ・セイフライドが演じるこの女に仲間がいて、そちらを登場させることができたかもしれません。
しかし、最小限の数の人物、最小限の舞台設定によって描かれたシュールレアリスム絵画のようなこの作品。
静かな夜にひっそりと楽しむのにはもってこいの本作を、あなたは睡魔に襲われることなく観られるでしょうか。

余談ですが、アマンダ・セイフライドのカタカナ表記は定まりがないようで、アマンダ・サイフレッドやアマンダ・サイフリード、アマンダ・セイフリードと、いろいろあってややこしいですね。


ANON アノン(字幕版)[→Prime Video]
[→吹き替え版]
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最近のであれば『ドローン・オブ・ウォー』
少なくともこの2つを観たときの印象に、静かな映画だなというのがありました。
こういう作品に、深いなとかメッセージ性があるなと述べてしまえばありきたりな感想になってしまいそうです。
しかしこの『ANON アノン』に関しては深いメッセージ性どころか、それまでにも数多く作られているようなSFの要素を超薄味にしてしまったような作品に思えます。
にも関わらず、眠気をこらえながら深夜にひっそりと最後まで観ていたくなる、心地よい作品でもあります。
『ANON アノン』(2018年 脚本・監督:アンドリュー・ニコル 出演:クライブ・オーウェン、アマンダ・セイフライド 他)

【あらすじ】──地球上の全ての人間の記憶が記録され検問される近未来では犯罪が不可能となった代わりに人々のプライバシーや匿名性は失われていた。
そんな中、不可解な殺人事件が発生する。
サル・フリーラン刑事(クライブ・オーウェン)は、個人を特定できない"記録のない女"(アマンダ・セイフライド)を目撃し、彼女を追跡する。──

☆派手さのないディストピア描写
本作はあらすじにもあるとおり、地球上の全ての人間の記憶が記録され検問できるようになり、犯罪が不可能な世界を描いています。
警察は人の記憶にアクセスできてしまうので、殺人などが起きても被害者の殺される直前の記憶を見れば誰が犯人かもわかるし、それこそ犯人側の目線の記憶も見られるわけです。
完璧な管理ができる社会ではあるのですが、そんな世の中を良く思う人は少ないでしょう。
よくこういう舞台設定をディストピアという言葉で表現され、似たような世界を描いた映画は多く見受けられます。
ただ、その中でも本作はそのディストピアの描写がソフトです。
冒頭ではこの管理システムを使った捜査の依頼をする人々の姿に焦点があてられ、システムそのものに不満を抱いている人のシーンはありません。
むしろこれで平和な社会が築かれているから納得しているという雰囲気すら映像から伝わります。
しかしそれこそがディストピアと言えるのでしょう。
これが普通と思い込んでいつもどおりの日常の中にいる人々の姿。
その管理体制に立ち向かおうとする民衆の姿が最初から現れないところは本来コワいはずです。
それなのに、そのヒンヤリとした世界観を心地よく静観していられます。

いかにも悪どい形相の権力者なる者もいません。
心地よく観ていられる要因は、こういう世界を単純な良し悪しで判断させる描き方ではないところにあります。
とにかく安全で平和で、何ら不便はなさそうな世界というのを淡々とシュールな絵として眺めているような感覚に身を任せてしまいそうです。
★派手さのない近未来の描写
本作は近未来を描いた作品ですが、具体的な時代は示していないようです。
その中で、現代と地続きな日常空間がシーンの1つひとつに見受けられます。
ビル群に現れるホログラムの企業広告によって、確かに未来を感じさせる表現はされているものの、サイバーパンク映画にある混沌とした世界とは違います。
そして本作の描く世界の要ともなっている記憶の検問システムは、ただ人物たちの視界に、別の人間の記憶がその人間の視点で再生されるというものです。

また、街中ですれ違う全ての人々の名前やデータが表示されるというものです。
この辺りはサイバーパンク映画でよく見る電脳通信のようなシステムですが、どの人物たちも見た目は普通の人間です。

VRやARのような端末を身につけているわけでもなく、サイボーグのような姿をした者も登場しません。
グレーやブルーで表現された色彩感。


その中で描かれるごく普通の姿をした人物たち。
SFといっても科学的な世界ではなく、それがシステムとしてできあがった先での人間社会を文学的な視点で堪能できる作品です。
☆最高にドライなセクシュアル描写
さて、飽くまでヒンヤリ冷製な未来世界を描いた本作ですが、あからさまなベッドシーンがしっかりある作品でもあります。
この二面性はやはりヨーロッパ映画の特徴なのでしょうか。
同性愛カップルのシーンやコールガールのシーン。
クライブ・オーウェンが演じる刑事も硬派な人物ながら、コールガールを利用する場面があり、そういうところには人間らしさを感じさせられます。

だからといって、殺人事件の犯人を追跡するために自身のデータを偽造してコールガールと行為に及ぶところは大変だなと思います。
刑事の仕事かよ!
と、突っ込みたくなりそうですが、これがストーリーを成り立たせるために必要なんですね。
やっぱりこの思いきりな表現はヨーロッパ映画らしい気がします。
ただしそんなセクシュアルな演出も本作においてはドライな仕上がりです。
たとえハイテクな未来でも、こういう場でやることはみんな同じだというのをむしろ淡々と見せてくれています。
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★ブルネットのアマンダ・セイフライドがカッコいい!
ご存知の方もいるかと思いますが、本作の監督アンドリュー・ニコルは『TIME/タイム』(2011年)の監督を務めており、その作品でもアマンダ・セイフライドが出演しています。
あちらの作品でのアマンダ・セイフライドはもっとツンとした顔つきでした。
あれから8年たって、本作『ANON アノン』では役作りによるものが大きいかと思いますが、あのツンとした感じが薄れて、それでいてクールな色気があります。

そしてそのミステリアスな雰囲気がカッコいいんです!
ブルネットの髪だからといってナチュラルというわけではなく、可愛さがありつつ大人びた魅力もある。
あの頃より良いではないですか!
そう、とにかく私は本作のアマンダ・セイフライドが最高に好きです!

もともと、その他の出演作やいろいろな画像で見ても彼女はブロンドのイメージが強くそれが魅力的です。
しかし本作ではその映像世界からしてブルネットや黒髪あたりがマッチしていますね(考え方としてはマトリックスに近い!)。
完全な管理社会を舞台に、そこに唯一描かれている静かなる反逆者を演じている彼女。
スタイリッシュでクールな世界観に、スタイリッシュでクールでミステリアスなアマンダ・セイフライドを見られるだけでも、本作を観る価値があるでしょう。
──というわけで、同監督の特に『ガタカ』や『TIME/タイム』のような有名作品に比べると、特別多くを語られる内容ではありません。
これがそこそこの大作として製作されていたなら、その記憶の管理システムというのをもっと深く掘り下げて描写できていたのではないでしょうか。
あるいはアマンダ・セイフライドが演じるこの女に仲間がいて、そちらを登場させることができたかもしれません。
しかし、最小限の数の人物、最小限の舞台設定によって描かれたシュールレアリスム絵画のようなこの作品。
静かな夜にひっそりと楽しむのにはもってこいの本作を、あなたは睡魔に襲われることなく観られるでしょうか。

余談ですが、アマンダ・セイフライドのカタカナ表記は定まりがないようで、アマンダ・サイフレッドやアマンダ・サイフリード、アマンダ・セイフリードと、いろいろあってややこしいですね。

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