『アップグレード』──前面にあるのはテクノロジーの欠陥
- 2021/02/07
- 11:06
劇場公開当時、観ようか観まいか考えて結局スルーし、プライム・ビデオで配信されたところでウォッチリストに加えたけどしばらく放置してしまっていたこの作品。
『アップグレード』(2018年 監督・脚本:リー・ワネル 出演:ローガン・マーシャル=グリーン、メラニー・バレイヨ、ハリソン・ギルバートソン、ベティ・ガブリエル、ベネディクト・ハーディ 他)


アップグレード (字幕版)[→Prime Video]
[→吹き替え版]
【あらすじ】──自動運転の車が走る近未来。
旧型の車の整備士グレイ(ローガン・マーシャル=グリーン)は修理した車を妻のアシャ(メラニー・バレイヨ)とともに、顧客のエロン(ハリソン・ギルバートソン)の家に届ける。
そこでグレイは天才エンジニアであるエロンの開発したAIチップ「STEM」を目にする。
帰り道、グレイとアシャが乗っていた自動運転の車が暴走し、フィスク(ベネディクト・ハーディ)が率いる組織に襲撃される。
アシャは殺害され、自身は四肢麻痺状態となったグレイのもとにエロンが見舞いに来る。

STEMを体に埋め込み、再び自由な体になることを提案されたグレイはエロンの実験台になるが…。──
☆脚本家としても監督としても活躍するリー・ワネルの手腕
近未来のテクノロジーを描いた映画はもうあちこちで作られているし、何ら新鮮さを感じるものはありません。

後はそれをどういう視点で取り扱うかでおもしろいか否かが分かれそうですが、おもしろくしてしまっているのが監督・脚本のリー・ワネルです。
彼が脚本や監督を手掛けた作品を見渡すと、『ソウ』シリーズや『インシディアス』シリーズ、そして2020年の『透明人間』と、あの作品もこの作品も彼が携わっていたのかと、とにかくホラー映画やスリラー映画におけるヒットメーカーぶりがわかります。
『透明人間』は今現在で記憶に新しい作品ですが、昔からあるネタを現代的な表現でスリリングな展開で描いた傑作でした。
その脚本家・監督がここに来て近未来のテクノロジーというテーマをスリラーの中に持ち込んだわけですから、そのおもしろさに納得です。
軸となっているのはあくまでスリラーなので、「ここ最近のよく扱われるAIか」などと言うような使い古し感がないのです。
近未来テクノロジーそのものの世界観を強調した作品というよりは、従来のスリラーに登場するサイコキラーや恐怖の媒体となる小道具を近未来テクノロジーの物に置き換えたと言うべきでしょう。
なのでよくあるB級近未来SFになることなく、本当に過去のリー・ワネルによるスリラーの持ち味がそのまま表れた作品という感覚です。
主人公を容赦なく追い詰めていくハラハラ感とスピード感ある展開、刑事が好んで使う車は旧型という普遍さ。
ちなみにあらすじの通り、天才エンジニアのエロンの車も旧型です。
意外と登場人物たちは新しいテクノロジーに染まっていない!
そのテクノロジーの周辺でやっていることは、アナクロな謎解きや追跡やバトルなものだから、良いのか悪いのか…。

しかしそれがまた退屈せずに観ていられるわけです。
つまりはストレートなスリラー映画で楽しませる路線を崩すことなく、しかし扱っているのは高度な技術で造られたAIチップであるという斬新さが本作のおもしろいところです。
★アナログな人間たちを通して見るハイテクの欠陥
本作の興味深い演出に、先ほども述べた旧型の車の活躍があります。

主人公の妻・アシャが愛用している車は自動運転のハイテクな車であるのに対し、主人公本人は旧型の車の整備士であるところ。
天才エンジニアのエロンが、ハイテクの塊とも言える研究所の家に住んでいるにもかかわらず、やはり旧型の車を使用する顧客の1人であるところも興味深い描写です。
更には事件を追う刑事・コルテスもやたら旧型の車を好む描写があります。

冒頭に自動運転のハイテク車を登場させても、劇中その車が活躍する場面はあまりなく、むしろ途中で暴走して事故を起こすという有り様です。
ここがハイテクの欠点とも言える描写です。
そのハイテクで覆いつくされた車は、不具合で暴走しても人間が自分で操作しているわけではないので途中で修正が利かないのですね。
しかもネットでつながっているのであれば、ハッキングされる危険性があります。
暴走するのもハッカーの仕業ということもあり得ます。
コルテス刑事が旧型の車を欲しがる理由がそういうところにあることを示す彼女の台詞があります。
本作はハイテクな世界に発生しうる欠陥を通して見えるアナログな道具の利点を再認識させるメッセージが込められています。
主人公の体に埋め込まれるSTEMも確かに並外れた身体能力を得られますが、何も良いことばかりではありません。
どちらかと言えばAIの意思で動かされているといったところです。
一度不随になった体をまた動かせるようになっても、また違った意味での不自由が主人公を苦しめます。
人間の手を使わなくても様々なことが自動でできる社会はメリットも多いし、特に車の自動運転はそれこそ大きなメリットが期待できます。
だから個人的には良いと思うのですが、そのようなことが実現されたら実際、私たちは自分であれこれ動かせた頃をありがたく感じるようになるかもしれません。
結局のところ両方のメリットとデメリットを天秤にかけて、どう思うかの問題です。
それにしても本作は良い意味でアナログを捨てきれていない人物たちのぶつかり合いがあり、ハイテクづくめの近未来SFから外れたアクション要素が良い方向に利いていますね!
☆目で楽しませるSF的な造形
本作は脚本で楽しませてくれるのですが、SF的な造形はというと、どこか取って付けたような所があります。
(褒め言葉になってない!)
まずハリソン・ギルバートソンが演じるエロンの少年みたいでいながらマッドサイエンティストな風貌がグッドですね!


そんなエロンの家のインテリアはまるで昔の特撮映画を思わせる作り物感。
(私は好きですこういうの!…)
そして何よりも、それっているの?と思わされる悪者たちの人体改造。
腕が銃になっています!

いやそこは普通に拳銃を携帯したほうが良さそうな気がするが…
とにかくどこかで人間離れした所を見せたかったのでしょうか。
いやいや、こういうのも私は好きですけどね!
つまりは目で楽しませるのを重視した演出!
良くも悪くも本作の一際チープな演出です。
対して画面に映る景色はというと決して近未来な感じはしません。
そこはある意味でリアルとも言えます。
途中でグレイが助けを求めるために会うハッカーなんぞは風貌からして泥臭く、その後ろでVRの世界に入り込んでいる者たちの姿が相まって、いい具合に闇市場感が表現されています。
ハイテク感をしっかりと持たせているシーンと言えば、組織のリーダーであるフィスクがクシャミのような動作をして放つナノマシンを相手の鼻から侵入させて殺すという演出です。
これやられたら勝てる気がしない!

恐るべき人体改造を施した悪です。
──てなわけで、最近ますますブログが滞りがちで、しかも前回まで怪獣映画や特撮映画の記事が続いていました。
よってかなり久しぶりな"怪獣"や"特撮"以外の映画の記事です。
ゴジラやガメラを観ているとそればかり観てしまい、DCユニバースを観ているとそればかり観てしまいそうになるのですが、もちろん他の映画もおもしろいし、当然ながら観ています。
その中の最近おもしろいと感じた作品の1つがこの『アップグレード』です。
しかしここで調子にのってしまうと、今度はSF映画ばかり取り上げるようになりそうな…。
あるいはDCユニバース続きになりそうです。
『ゴジラvsコング』も楽しみですが、『バットマンvsスーパーマン』もまた観たくなってきました。


アップグレード [Blu-ray][→Amazon]
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『アップグレード』(2018年 監督・脚本:リー・ワネル 出演:ローガン・マーシャル=グリーン、メラニー・バレイヨ、ハリソン・ギルバートソン、ベティ・ガブリエル、ベネディクト・ハーディ 他)

【あらすじ】──自動運転の車が走る近未来。
旧型の車の整備士グレイ(ローガン・マーシャル=グリーン)は修理した車を妻のアシャ(メラニー・バレイヨ)とともに、顧客のエロン(ハリソン・ギルバートソン)の家に届ける。
そこでグレイは天才エンジニアであるエロンの開発したAIチップ「STEM」を目にする。
帰り道、グレイとアシャが乗っていた自動運転の車が暴走し、フィスク(ベネディクト・ハーディ)が率いる組織に襲撃される。
アシャは殺害され、自身は四肢麻痺状態となったグレイのもとにエロンが見舞いに来る。

STEMを体に埋め込み、再び自由な体になることを提案されたグレイはエロンの実験台になるが…。──
☆脚本家としても監督としても活躍するリー・ワネルの手腕
近未来のテクノロジーを描いた映画はもうあちこちで作られているし、何ら新鮮さを感じるものはありません。

後はそれをどういう視点で取り扱うかでおもしろいか否かが分かれそうですが、おもしろくしてしまっているのが監督・脚本のリー・ワネルです。
彼が脚本や監督を手掛けた作品を見渡すと、『ソウ』シリーズや『インシディアス』シリーズ、そして2020年の『透明人間』と、あの作品もこの作品も彼が携わっていたのかと、とにかくホラー映画やスリラー映画におけるヒットメーカーぶりがわかります。
『透明人間』は今現在で記憶に新しい作品ですが、昔からあるネタを現代的な表現でスリリングな展開で描いた傑作でした。
その脚本家・監督がここに来て近未来のテクノロジーというテーマをスリラーの中に持ち込んだわけですから、そのおもしろさに納得です。
軸となっているのはあくまでスリラーなので、「ここ最近のよく扱われるAIか」などと言うような使い古し感がないのです。
近未来テクノロジーそのものの世界観を強調した作品というよりは、従来のスリラーに登場するサイコキラーや恐怖の媒体となる小道具を近未来テクノロジーの物に置き換えたと言うべきでしょう。
なのでよくあるB級近未来SFになることなく、本当に過去のリー・ワネルによるスリラーの持ち味がそのまま表れた作品という感覚です。
主人公を容赦なく追い詰めていくハラハラ感とスピード感ある展開、刑事が好んで使う車は旧型という普遍さ。
ちなみにあらすじの通り、天才エンジニアのエロンの車も旧型です。
意外と登場人物たちは新しいテクノロジーに染まっていない!
そのテクノロジーの周辺でやっていることは、アナクロな謎解きや追跡やバトルなものだから、良いのか悪いのか…。

しかしそれがまた退屈せずに観ていられるわけです。
つまりはストレートなスリラー映画で楽しませる路線を崩すことなく、しかし扱っているのは高度な技術で造られたAIチップであるという斬新さが本作のおもしろいところです。
★アナログな人間たちを通して見るハイテクの欠陥
本作の興味深い演出に、先ほども述べた旧型の車の活躍があります。

主人公の妻・アシャが愛用している車は自動運転のハイテクな車であるのに対し、主人公本人は旧型の車の整備士であるところ。
天才エンジニアのエロンが、ハイテクの塊とも言える研究所の家に住んでいるにもかかわらず、やはり旧型の車を使用する顧客の1人であるところも興味深い描写です。
更には事件を追う刑事・コルテスもやたら旧型の車を好む描写があります。

冒頭に自動運転のハイテク車を登場させても、劇中その車が活躍する場面はあまりなく、むしろ途中で暴走して事故を起こすという有り様です。
ここがハイテクの欠点とも言える描写です。
そのハイテクで覆いつくされた車は、不具合で暴走しても人間が自分で操作しているわけではないので途中で修正が利かないのですね。
しかもネットでつながっているのであれば、ハッキングされる危険性があります。
暴走するのもハッカーの仕業ということもあり得ます。
コルテス刑事が旧型の車を欲しがる理由がそういうところにあることを示す彼女の台詞があります。
本作はハイテクな世界に発生しうる欠陥を通して見えるアナログな道具の利点を再認識させるメッセージが込められています。
主人公の体に埋め込まれるSTEMも確かに並外れた身体能力を得られますが、何も良いことばかりではありません。
どちらかと言えばAIの意思で動かされているといったところです。
一度不随になった体をまた動かせるようになっても、また違った意味での不自由が主人公を苦しめます。
人間の手を使わなくても様々なことが自動でできる社会はメリットも多いし、特に車の自動運転はそれこそ大きなメリットが期待できます。
だから個人的には良いと思うのですが、そのようなことが実現されたら実際、私たちは自分であれこれ動かせた頃をありがたく感じるようになるかもしれません。
結局のところ両方のメリットとデメリットを天秤にかけて、どう思うかの問題です。
それにしても本作は良い意味でアナログを捨てきれていない人物たちのぶつかり合いがあり、ハイテクづくめの近未来SFから外れたアクション要素が良い方向に利いていますね!
☆目で楽しませるSF的な造形
本作は脚本で楽しませてくれるのですが、SF的な造形はというと、どこか取って付けたような所があります。
(褒め言葉になってない!)
まずハリソン・ギルバートソンが演じるエロンの少年みたいでいながらマッドサイエンティストな風貌がグッドですね!


そんなエロンの家のインテリアはまるで昔の特撮映画を思わせる作り物感。
(私は好きですこういうの!…)
そして何よりも、それっているの?と思わされる悪者たちの人体改造。
腕が銃になっています!

いやそこは普通に拳銃を携帯したほうが良さそうな気がするが…
とにかくどこかで人間離れした所を見せたかったのでしょうか。
いやいや、こういうのも私は好きですけどね!
つまりは目で楽しませるのを重視した演出!
良くも悪くも本作の一際チープな演出です。
対して画面に映る景色はというと決して近未来な感じはしません。
そこはある意味でリアルとも言えます。
途中でグレイが助けを求めるために会うハッカーなんぞは風貌からして泥臭く、その後ろでVRの世界に入り込んでいる者たちの姿が相まって、いい具合に闇市場感が表現されています。
ハイテク感をしっかりと持たせているシーンと言えば、組織のリーダーであるフィスクがクシャミのような動作をして放つナノマシンを相手の鼻から侵入させて殺すという演出です。
これやられたら勝てる気がしない!

恐るべき人体改造を施した悪です。
──てなわけで、最近ますますブログが滞りがちで、しかも前回まで怪獣映画や特撮映画の記事が続いていました。
よってかなり久しぶりな"怪獣"や"特撮"以外の映画の記事です。
ゴジラやガメラを観ているとそればかり観てしまい、DCユニバースを観ているとそればかり観てしまいそうになるのですが、もちろん他の映画もおもしろいし、当然ながら観ています。
その中の最近おもしろいと感じた作品の1つがこの『アップグレード』です。
しかしここで調子にのってしまうと、今度はSF映画ばかり取り上げるようになりそうな…。
あるいはDCユニバース続きになりそうです。
『ゴジラvsコング』も楽しみですが、『バットマンvsスーパーマン』もまた観たくなってきました。

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