伊藤計劃による小説が原作のアニメ映画3作品
- 2022/01/28
- 21:00
前回は映画を観たら原作小説を読みたくなるマイケル・クライトン原作映画を取りあげました。
そして今回も小説が原作の作品を3つ取りあげます。
日本のSF作家、伊藤計劃の小説を原作にしたアニメ映画です。
私自身が鑑賞した順番に述べていきますので、作品の公開年は前後します。
まずはこちら──
『虐殺器官』(2017年 監督:村瀬修功 声の出演:中村悠一、櫻井孝宏、三上哲 他)


虐殺器官 [Blu-ray][→Amazon]
────管理社会によりテロの驚異を排除した先進国。一方で紛争と大規模虐殺が蔓延する後進国。その裏では言語学者ジョン・ポールの思惑が絡んでいた。──

本作は伊藤計劃のデビュー作である同名小説をアニメ映画化した作品です。
私は劇場公開前に興味が沸いて先に小説を読み、その精巧な世界観設定とSF描写に惹かれました。
そして映画はその原作に忠実で、読んだ内容が視覚化されていてワクワクしました。
本作に登場するSF描写で特に目玉となっているのは人工筋肉を使った乗り物や機械たちです。
そこで描かれている技術の斬新さはもとより、それらが造られる過程の問題を人物が語るシーンに現実味があります。
「遺伝子操作されたクジラやイルカを解体し、筋肉繊維だけが出荷され、低賃金で働く少年少女たちによって箱詰めされる」
ハイテクに囲まれた安全で豊かな世界の闇の部分を醜いほどに顕在化した台詞が、フィクションで描かれた技術や、それらにより造られた世界を土台に飛び交います。
後進国のあちこちで起きる紛争や虐殺の鍵となるジョン・ポールの思惑は、実にシンプルかつ納得させられる説得力があります。
言語を研究し、虐殺には共通した文法があるという彼の説は難解です。
しかしラストはあっけないくらいに、先進国にいる我々が共感を覚える本質が明るみになります。
では2つ目──
『ハーモニー』(2015年 監督:なかむらたかし、マイケル・アリアス 声の出演:沢城みゆき、上田麗奈、洲崎綾 他)


ハーモニー [Blu-ray][→Amazon]
[→Prime Video]
──高度な医療システムにより健康・幸福であることが義務とされた管理社会で同時多発的に自殺者が発生。WHO螺旋監察事務局の霧慧トァンは事件の捜査で、かつての友人で自殺した御冷ミァハとの関係をつきとめる。──

こちらの作品は『虐殺器官』とはまた違った意味での管理社会が描写されています。
医療が高度に発展した世界を描いた作品です。
しかし、他人どうしである人々が単一の社会システムで監視されることで、争いや暴動が起きないという様を描写し、リスクをともなう自由と安全を約束される束縛とを天秤にかける概念というところに関しては『虐殺器官』にも通じている部分があります。
誰もが健康で幸福に暮らせる社会と聞くと良い社会に思えますが、主人公・トァンの言う「優しさでジリジリと絞め殺される」という表現からして、ユートピアとディストピアの紙一重な狭間を見せられている感覚があります。
いかにも上からの押しつけがましい"幸福感"ですね。
(とは言ってもそこまで悪いとは思えませんが…)
それにしても、事件発生の鍵を握っている御冷ミァハのサイコぶりが凄まじいです。
そのキャラクター描写により、見事なまでに劇場型犯罪を描いたSFサスペンスとなっています。
しかし、ただのサイコキャラでもなく、彼女の生まれや背景が掘り下げられるところで痛ましい気持ちになります。
(ロシア人が怒らないか…)
あからさまな残虐描写を画面で見せることはあまりないですが、言葉の中に生々しさがある作品であるため、原作を読んでいない私は読むのはちょっと怖いですね。
それでは3つ目です──
『屍者の帝国』(2015年 監督:牧原亮太郎 声の出演:細谷佳正、村瀬歩、楠大典 他)


屍者の帝国 [Blu-ray][→Amazon]
[→Prime Video]
──蘇生した屍者が労働力として使われる19世紀。医学生のワトソンは大英帝国の諜報員として、生者のように意思を持ち言葉を話す屍者を作る技術が記された「ヴィクターの手記」を捜索する。──

本作はいよいよ先の2作品とは全く作風の違う作品です。
物語の舞台は19世紀で、近未来SFではないながら、屍者(本作では死者とは表現しない)を蘇生させる技術が開発されているという風変わりな世界観です。
いわゆるスチームパンクと言われるような世界観を美しい作画で描いた作品です。
更には何が言いたいのか解釈が一番難しい作品だと私は思います。
知能を駆使して世界に混乱をもたらす明確な敵がいないというべきでしょうか。
そもそも主人公のワトソンを初めとした人物たちが旅に出る最初の目的が、ロシア軍を脱走してアフガン北方に屍者の王国を築いたカラマーゾフという男の動向を調査するというものです。
そしてそこから、あれやこれやの流れで100年前にヴィクター・フランケンシュタインが造り出した最初の屍者・ザ・ワンが敵として立ちはだかるクライマックス。
このザ・ワンと戦う前後あたりでなんじゃこりゃ?!となります。
しかしながらやはり19世紀のスチームパンクな世界観を描いたその作画の美しさもあり、そういったところで楽しめる作品です。
──今回は伊藤計劃の小説が原作のアニメ映画3作品についてサラッと述べました。
3作品とも原作者は同じながら、それぞれ違う制作スタジオやスタッフによる映像化で作画が全然違います。
よってそれらを見比べながら楽しめる作品たちでもあります。
『虐殺器官』は『機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ』の村瀬修功さんが監督を務め、原画を手掛けているので絵が似ています。
とりわけリアルな人間の描き方で、一番私の好みの作画です。


虐殺器官(完全生産限定版) [Blu-ray][→Amazon]


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そして今回も小説が原作の作品を3つ取りあげます。
日本のSF作家、伊藤計劃の小説を原作にしたアニメ映画です。
私自身が鑑賞した順番に述べていきますので、作品の公開年は前後します。
まずはこちら──
『虐殺器官』(2017年 監督:村瀬修功 声の出演:中村悠一、櫻井孝宏、三上哲 他)

────管理社会によりテロの驚異を排除した先進国。一方で紛争と大規模虐殺が蔓延する後進国。その裏では言語学者ジョン・ポールの思惑が絡んでいた。──

本作は伊藤計劃のデビュー作である同名小説をアニメ映画化した作品です。
私は劇場公開前に興味が沸いて先に小説を読み、その精巧な世界観設定とSF描写に惹かれました。
そして映画はその原作に忠実で、読んだ内容が視覚化されていてワクワクしました。
本作に登場するSF描写で特に目玉となっているのは人工筋肉を使った乗り物や機械たちです。
そこで描かれている技術の斬新さはもとより、それらが造られる過程の問題を人物が語るシーンに現実味があります。
「遺伝子操作されたクジラやイルカを解体し、筋肉繊維だけが出荷され、低賃金で働く少年少女たちによって箱詰めされる」
ハイテクに囲まれた安全で豊かな世界の闇の部分を醜いほどに顕在化した台詞が、フィクションで描かれた技術や、それらにより造られた世界を土台に飛び交います。
後進国のあちこちで起きる紛争や虐殺の鍵となるジョン・ポールの思惑は、実にシンプルかつ納得させられる説得力があります。
言語を研究し、虐殺には共通した文法があるという彼の説は難解です。
しかしラストはあっけないくらいに、先進国にいる我々が共感を覚える本質が明るみになります。
では2つ目──
『ハーモニー』(2015年 監督:なかむらたかし、マイケル・アリアス 声の出演:沢城みゆき、上田麗奈、洲崎綾 他)

──高度な医療システムにより健康・幸福であることが義務とされた管理社会で同時多発的に自殺者が発生。WHO螺旋監察事務局の霧慧トァンは事件の捜査で、かつての友人で自殺した御冷ミァハとの関係をつきとめる。──

こちらの作品は『虐殺器官』とはまた違った意味での管理社会が描写されています。
医療が高度に発展した世界を描いた作品です。
しかし、他人どうしである人々が単一の社会システムで監視されることで、争いや暴動が起きないという様を描写し、リスクをともなう自由と安全を約束される束縛とを天秤にかける概念というところに関しては『虐殺器官』にも通じている部分があります。
誰もが健康で幸福に暮らせる社会と聞くと良い社会に思えますが、主人公・トァンの言う「優しさでジリジリと絞め殺される」という表現からして、ユートピアとディストピアの紙一重な狭間を見せられている感覚があります。
いかにも上からの押しつけがましい"幸福感"ですね。
(とは言ってもそこまで悪いとは思えませんが…)
それにしても、事件発生の鍵を握っている御冷ミァハのサイコぶりが凄まじいです。
そのキャラクター描写により、見事なまでに劇場型犯罪を描いたSFサスペンスとなっています。
しかし、ただのサイコキャラでもなく、彼女の生まれや背景が掘り下げられるところで痛ましい気持ちになります。
(ロシア人が怒らないか…)
あからさまな残虐描写を画面で見せることはあまりないですが、言葉の中に生々しさがある作品であるため、原作を読んでいない私は読むのはちょっと怖いですね。
それでは3つ目です──
『屍者の帝国』(2015年 監督:牧原亮太郎 声の出演:細谷佳正、村瀬歩、楠大典 他)

──蘇生した屍者が労働力として使われる19世紀。医学生のワトソンは大英帝国の諜報員として、生者のように意思を持ち言葉を話す屍者を作る技術が記された「ヴィクターの手記」を捜索する。──

本作はいよいよ先の2作品とは全く作風の違う作品です。
物語の舞台は19世紀で、近未来SFではないながら、屍者(本作では死者とは表現しない)を蘇生させる技術が開発されているという風変わりな世界観です。
いわゆるスチームパンクと言われるような世界観を美しい作画で描いた作品です。
更には何が言いたいのか解釈が一番難しい作品だと私は思います。
知能を駆使して世界に混乱をもたらす明確な敵がいないというべきでしょうか。
そもそも主人公のワトソンを初めとした人物たちが旅に出る最初の目的が、ロシア軍を脱走してアフガン北方に屍者の王国を築いたカラマーゾフという男の動向を調査するというものです。
そしてそこから、あれやこれやの流れで100年前にヴィクター・フランケンシュタインが造り出した最初の屍者・ザ・ワンが敵として立ちはだかるクライマックス。
このザ・ワンと戦う前後あたりでなんじゃこりゃ?!となります。
しかしながらやはり19世紀のスチームパンクな世界観を描いたその作画の美しさもあり、そういったところで楽しめる作品です。
──今回は伊藤計劃の小説が原作のアニメ映画3作品についてサラッと述べました。
3作品とも原作者は同じながら、それぞれ違う制作スタジオやスタッフによる映像化で作画が全然違います。
よってそれらを見比べながら楽しめる作品たちでもあります。
『虐殺器官』は『機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ』の村瀬修功さんが監督を務め、原画を手掛けているので絵が似ています。
とりわけリアルな人間の描き方で、一番私の好みの作画です。



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