マルチバース映画の先駆けか? 『ザ・ワン』
- 2023/05/27
- 10:45
なんだね、マルチバースマルチバースってうるさいな…
と、最近の映画館で流れる予告を見ていて思います。
SFの世界でよく扱われてきた題材と言えば、昔はタイムトリップであったり宇宙とか地球外生命であったりで、あとは昔も今もよく使われている気がするのがAIですね。
そして最近、AIと並んでやたら目にする映画のネタがマルチバースです。
別次元の宇宙が存在しているという多次元宇宙論(=マルチバース)という言葉は1800年代にあったそうです。
そしてマルチバースを題材にした映画もまた最近の作品だけでなく、もうこんな2000年代入って間もない頃にあったことをご存知でしょうか。
『ザ・ワン』(2001年 監督:ジェームズ・ウォン 出演:ジェット・リー、カーラ・グギノ、デルロイ・リンドー、ジェイソン・ステイサム、ジェームズ・モリソン)


ザ・ワン (字幕版)[→Paime Video]
【あらすじ】──125もの宇宙の存在が確認されたマルチバースでは、調和を図るために他の宇宙への移動は制限されていた。
しかし、違法にマルチバースを移動しては別世界の自分自身を殺害し、全知全能を手にしようと企むユーロウ(ジェット・リー)が123人目を殺害し、残す1人・ゲイブ(ジェット・リー)を殺そうとしていた。
多次元宇宙捜査局のハリー(デルロイ・リンドー)とファンチ(ジェイソン・ステイサム)とともに、ゲイブは襲いかかるユーロウと対決する。──
☆何回な理論抜きの爽快アクション
もういきなりストーリー設定から観るものを置いてけぼりにしています。
まず科学的理論は置いといて、マルチバースの移動が実現して一般化している世界なんですね。
理論的な部分と言えば軽くブラックホールの話が台詞の中で出てくるくらいです。
あとはそのマルチバースで暴れまわる悪と戦うSFアクションです。
その分観やすい!
具体性のある表現としては、マルチバースの数が125と示されています。
そしてその各々の世界線で色々なジェット・リーがいます。
更には各々の世界線にいる自分自身を殺せば能力がその分自分に集まり強くなるという所が本作の独自性のある概念です。
よってすでに123人の自分を殺しているユーロウが異常な身体能力を得ています。
一方で別世界の自分が殺されていることを知らない主人公のほうのジェット・リーもやはり知らぬ間に異常な身体能力を得てしまいます。
挙げ句にもう1人の自分・ユーロウに襲撃されてとんだ大迷惑です。
しかしこの荒唐無稽ながら、当時としてマルチバースという題材にどういうトッピングをするかという点でおもしろい概念です。
良い意味で現代の観客に通用しない荒唐無稽さでエンタメに振り切っていて潔いです。
しっかり科学的根拠に基づいたハードSFも良いものですが、難解すぎて眠らされては意味がないです。
いくつもの次元の宇宙を行ったり来たりできて、別次元にいる自分を殺したところで自分が強くなれるとは、現実では到底思えません。
しかし実際の物理学においても未だ魔法としか思えないような謎があるのもまた確かです。
よっていっそのことフィクションではこれくらいぶっ飛んでいてもちょうど良いくらいです。
★ジェット・リーのアクション演技力とVFXの融合
武術家でもあるジェット・リーといえば、カンフーを駆使したアクションですが、本作もやはり彼のアクションを見せる作品です。
そこに異常な身体能力を身につけた人物を表現した、VFXを使ったSFとしての演出が合わさっています。
ジェット・リーという俳優自身がそもそもすごい身体能力を持っているし、ここまでVFXを使わなくても、もっと自然な彼のアクションで見せて良かったかもと思えます。
とは言え、それだと彼が出演している他の作品と変わらなくなりますから、やはりVFXも必要なんでしょうね…。
いかんせん、SF映画ですから!
いずれにせよ、この武術を基礎としたジェット・リーのアクションとVFXの演出により、前述したとおり多次元宇宙の物理的な理論云々より、やはり爽快なアクションのほうが全面にある作品です。
しかも二人のジェット・リーが対決するという、ある意味ジェット・リーのファンにとっては贅沢な、ジェット・リーを見せるための作品と言えます。

当時、あの『マトリックス リローデッド』の出演を断ってまでこちらの作品に出演したとのことですが、おかげで主役として存分にアクションをこなせたことでしょう。
『マトリックス リローデッド』でキアヌ・リーブスとカンフーの手合わせをする彼を見てみたかった気もしますが、あちらでは脇役になってしまいますからね。
大作ではなくとも、自分自身を全面に出せる一人二役のアクションを、マトリックスとは違うテーマのSF作品で見せつけられたというところで、大きな意味のある選択だったと言えます。
──というわけでマルチバースを題材にした作品について語りましたが、過去に戻って未来を修正するというタイムトリップを描いた作品と似た性質を感じます。
今そこにない結果、今そこにない自分、今そこにない世界というものに願望を抱くという点です。
ロマンがありますが、どんなにベストを尽くしていても1つの人生では満足できない人間の欲張りな幻想を表した概念にも見えます。
本作に登場する悪のジェット・リーは、他の124もの宇宙にいる自分自身の能力を全て自分の物にしたいという強欲の塊を具現化したような人物ですね。
ここまで強欲にはならなくとも、別次元の宇宙にはもっと高い能力や地位や富を得た自分がいたりするのだろうかと考えてみたくなる気持ちは確かにわかります。
だからこそ、もし本作のような複数の次元の宇宙が存在し、それらを行ったり来たりできる技術が開発されても、人間の欲を制御するために法的な規制は必要になりそうです。


ザ・ワン [Blu-ray][→Amazon]
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と、最近の映画館で流れる予告を見ていて思います。
SFの世界でよく扱われてきた題材と言えば、昔はタイムトリップであったり宇宙とか地球外生命であったりで、あとは昔も今もよく使われている気がするのがAIですね。
そして最近、AIと並んでやたら目にする映画のネタがマルチバースです。
別次元の宇宙が存在しているという多次元宇宙論(=マルチバース)という言葉は1800年代にあったそうです。
そしてマルチバースを題材にした映画もまた最近の作品だけでなく、もうこんな2000年代入って間もない頃にあったことをご存知でしょうか。
『ザ・ワン』(2001年 監督:ジェームズ・ウォン 出演:ジェット・リー、カーラ・グギノ、デルロイ・リンドー、ジェイソン・ステイサム、ジェームズ・モリソン)

【あらすじ】──125もの宇宙の存在が確認されたマルチバースでは、調和を図るために他の宇宙への移動は制限されていた。
しかし、違法にマルチバースを移動しては別世界の自分自身を殺害し、全知全能を手にしようと企むユーロウ(ジェット・リー)が123人目を殺害し、残す1人・ゲイブ(ジェット・リー)を殺そうとしていた。
多次元宇宙捜査局のハリー(デルロイ・リンドー)とファンチ(ジェイソン・ステイサム)とともに、ゲイブは襲いかかるユーロウと対決する。──
☆何回な理論抜きの爽快アクション
もういきなりストーリー設定から観るものを置いてけぼりにしています。
まず科学的理論は置いといて、マルチバースの移動が実現して一般化している世界なんですね。
理論的な部分と言えば軽くブラックホールの話が台詞の中で出てくるくらいです。
あとはそのマルチバースで暴れまわる悪と戦うSFアクションです。
その分観やすい!
具体性のある表現としては、マルチバースの数が125と示されています。
そしてその各々の世界線で色々なジェット・リーがいます。
更には各々の世界線にいる自分自身を殺せば能力がその分自分に集まり強くなるという所が本作の独自性のある概念です。
よってすでに123人の自分を殺しているユーロウが異常な身体能力を得ています。
一方で別世界の自分が殺されていることを知らない主人公のほうのジェット・リーもやはり知らぬ間に異常な身体能力を得てしまいます。
挙げ句にもう1人の自分・ユーロウに襲撃されてとんだ大迷惑です。
しかしこの荒唐無稽ながら、当時としてマルチバースという題材にどういうトッピングをするかという点でおもしろい概念です。
良い意味で現代の観客に通用しない荒唐無稽さでエンタメに振り切っていて潔いです。
しっかり科学的根拠に基づいたハードSFも良いものですが、難解すぎて眠らされては意味がないです。
いくつもの次元の宇宙を行ったり来たりできて、別次元にいる自分を殺したところで自分が強くなれるとは、現実では到底思えません。
しかし実際の物理学においても未だ魔法としか思えないような謎があるのもまた確かです。
よっていっそのことフィクションではこれくらいぶっ飛んでいてもちょうど良いくらいです。
★ジェット・リーのアクション演技力とVFXの融合
武術家でもあるジェット・リーといえば、カンフーを駆使したアクションですが、本作もやはり彼のアクションを見せる作品です。
そこに異常な身体能力を身につけた人物を表現した、VFXを使ったSFとしての演出が合わさっています。
ジェット・リーという俳優自身がそもそもすごい身体能力を持っているし、ここまでVFXを使わなくても、もっと自然な彼のアクションで見せて良かったかもと思えます。
とは言え、それだと彼が出演している他の作品と変わらなくなりますから、やはりVFXも必要なんでしょうね…。
いかんせん、SF映画ですから!
いずれにせよ、この武術を基礎としたジェット・リーのアクションとVFXの演出により、前述したとおり多次元宇宙の物理的な理論云々より、やはり爽快なアクションのほうが全面にある作品です。
しかも二人のジェット・リーが対決するという、ある意味ジェット・リーのファンにとっては贅沢な、ジェット・リーを見せるための作品と言えます。

当時、あの『マトリックス リローデッド』の出演を断ってまでこちらの作品に出演したとのことですが、おかげで主役として存分にアクションをこなせたことでしょう。
『マトリックス リローデッド』でキアヌ・リーブスとカンフーの手合わせをする彼を見てみたかった気もしますが、あちらでは脇役になってしまいますからね。
大作ではなくとも、自分自身を全面に出せる一人二役のアクションを、マトリックスとは違うテーマのSF作品で見せつけられたというところで、大きな意味のある選択だったと言えます。
──というわけでマルチバースを題材にした作品について語りましたが、過去に戻って未来を修正するというタイムトリップを描いた作品と似た性質を感じます。
今そこにない結果、今そこにない自分、今そこにない世界というものに願望を抱くという点です。
ロマンがありますが、どんなにベストを尽くしていても1つの人生では満足できない人間の欲張りな幻想を表した概念にも見えます。
本作に登場する悪のジェット・リーは、他の124もの宇宙にいる自分自身の能力を全て自分の物にしたいという強欲の塊を具現化したような人物ですね。
ここまで強欲にはならなくとも、別次元の宇宙にはもっと高い能力や地位や富を得た自分がいたりするのだろうかと考えてみたくなる気持ちは確かにわかります。
だからこそ、もし本作のような複数の次元の宇宙が存在し、それらを行ったり来たりできる技術が開発されても、人間の欲を制御するために法的な規制は必要になりそうです。

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